さりげない、あと
初恋の『あと』
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初恋は、それなりに美しいものなのだと僕は思う。
それはすべての思い出を美しく着飾ってくれるのだから。
ぼくにとって学校という場所は楽しいという気持ちこそなかったけれど、唯一の逃げ場だったように思う。
小学校6年生。卒業まであと3カ月とせまった教室は取っ組み合いをして暴れ回っている猿のような男の子たちや、団体で恋バナに花を咲かせる女子たち、端の席でぼうっと外の景色をみている少し大人びた子たちなど様々だ。
ぼくは、その様子を横目に席についた。
「ヨウくん、おはよう」
隣の席の女の子が僕に声をかけた。
最後の席替えで隣になった子だった。
クラスの中心にいる女子の1人で、いつも楽しそうに笑っている。
そして何より誰にでも分け隔てなく話しかけるような、優しさがあった。
だからこそ、何かの標的にされやすいのだと思う。優しさは時に罪となる。
彼女はまだそれに気づいていない。
「…おはよう」
「今日も元気ないね、飴いる?」
「学校にお菓子もってきたらダメって、最近先生に怒られてただろ」
「バレなきゃいいのよ、バレなきゃ」
いたずらっ子のように笑ったその子の名前は、川北星子という。
名前の通り星が好きなのかとたずねたら、そういうわけでもないらしい。
差し出されたいちご味の飴を受け取り、ポケットに入れた。
「何書いてるの?」
何やら真剣に書いている星子にそうきくと、星子は恥ずかしそうにそれを隠した。
「なんでもないよ」
「ふーん」
とても気になるけれどしつこく聞くのも格好が悪いと思ったので適当な相槌を打った。
「星子ー!こっちきてー!」
彼女はノートとすごく距離が近かった顔をぱっとあげて、「分かった!」と返事をするとノートを閉じて机の中に入れる。
そして呼ばれた方へと駆け出して行った。
僕は彼女が何を書いていたのかとても気になった。彼女の机の中を探ってみてやろうかとも思ったけれどそんなことをしたら嫌われてしまうので我慢をする。
女子たちの群れに入って笑っている星子を頬杖をついて眺めた。
小学生ながらに分かっていた、これが初恋なんだろうと。
だけど、もうすぐ卒業で、僕は遠くの叔父のもとへ預けられることになっている。
当然だった。僕は家に居場所がない。
そんな僕が彼女に告白をしたところでどうにかなるものでもないのでこのままゆらりゆらりと日常が過ぎて、あっという間に大人になるのを待とうと思う。