さりげない、あと
あと少しで僕たちは少し大人になる。
残り数ヶ月間での出来事だった。
星子が1人でいることが増えた。
休み時間になるとすぐにどこかに駆け出して行った僕の隣の女の子は、今、隣でおとなしく席に座って何かを書いている。
何かあったのかとたずねようと思っても、僕にはそれができなかった。
何があったかなんて明白だったからだ。それを星子自身の口から言わせることは少し卑怯な気がした。
女の子たちの群れへと目を向けると、こそこそと何かを話しながら星子を見ていた。
1人の女の子が僕と目が合った。あからさまに目を逸らされ、「トイレ行こ」と教室を出ていく。
「トイレくらい1人で行けよ、バカ女ども」
僕の大きめの独り言に星子が反応した。
「え?なに?すごい暴言きこえたよ」
「事実を言っただけだろ、なんで女子って塊でトイレ行くの?みんなでトイレ行って楽しいの?」
「あはは、まあ、そうだね」
苦笑いで濁された。まあそうだろう、自分も最近まであっち側だったのだから。
なんだか申し訳なくなって、自らの髪をくしゃりと乱しながら星子に話しかける。
「…中学は、あいつらも一緒なん?」
「そうだよ、ここら辺の子たちは受験しない限り一緒の中学だよね。ヨウく、川﨑くんも一緒でしょ?」
なぜ、名前で呼んでくれなくなったのだろうか。
無言で星子を見つめる。返答がないことを不思議に思ったのか星子が首を傾げた。
「川﨑くん?」と。
俺は、行き場のない歯痒さを押し殺すようにして机に突っ伏した。
「どうしちゃったの、ヨウく、川﨑くん」
「僕が関係してるの?」
「なに?」
「女子たちからの仲間はずれ、僕が関係してるの?」
「えっと、」
僕のこもった声が星子の耳に届いた時、星子の声が分かりやすく揺れた。
理由はガキみたいなことなのだろう。まあ、事実僕も含めてガキなんだけど。
「違うと思う」
「は?」
がばっと顔を上げれば、星子は僕から目を逸らし鉛筆を軽く揺らしながら小さくため息をついた。
「私ね、テレビとかあんまりみないし、流行りのものにはついていけないしそういうのでイラつかせちゃったんだよ」
「そんなことで?」
「女の子ってそういうものなの」
「めんどくさ」
「うん、だからいいの。時間が経てば解決するから」
「標的が変わるだけなんじゃないの」
僕の言葉に、星子が「どういうこと?」と僕の方を再び見た。
「その解決ってさ、星子じゃない誰かがまた仲間外れにされるってそういうことなんじゃない?」
彼女の瞳が大きく開かれる。
そして鉛筆を握る手に力が入る。薄々気づいてはいたのだろう。
何かを堪えるように唇をきゅっと結んだ星子。
「じゃあ、今のままでいいや」
そう言ってまたノートに何かを書き始めた星子。
僕がいるじゃないか。と言いたかったけど言えなかった。もうすぐ離れてしまうから。