さりげない、あと





「ななみがね、星子の悪口言ってたよ」


唐突。

星子の席の前を取り囲んだ女の子たち。そして星子の正面に立っているリーダー格の女が星子に堂々と言い放った言葉。
僕は隣を睨みつけた。

星子は何を言われたのか一瞬理解ができないような顔をして、そして状況を把握した。

標的が変わろうとしている。

そしてななみとは先日、僕に告白をしてきた子だった。まあ、僕にしてみたら女の集団心理など知ったことではないけれどこの状況がいいとも思わない。

星子は戸惑ったように僕の方をみた。

昨日、川沿いでのやりとりを思い出したのだろうか。
泣きそうになって、そして、俯いて、小さく息を吐いた。


「星子もななみのこと、うざいって思ってたでしょ?今日から無視しようってみんなで話してるんだけど」


「…」


「星子?」


星子は、顔を上げた。
その顔は怒りに満ち溢れていた。

そして机に手を置き、立ち上がった星子。
まだ手の甲の星は消えていない。

僕は、「いけ」と。そう思った。

振り上げられた拳。描かれた星が流れ星のように飛んでいく。
ぶつけられたそれにより、正面の女が地面に倒れた。


「グーでいく?普通」


頬に手を添えて、驚きを隠せないその女がそう言った。そして周りの女子たちが慌てたように殴られた女を取り囲み、1人は「先生呼んでくる!」と駆け出して行った。
星子は慌てる様子もなく、冷たい瞳で女を見下ろしていた。


「こういうの、終わりにしよう。アホらしいから」


星子の低い声がそこに響いた。
僕はニヤリと笑った。

星子は僕が去る前に一歩前に進んだ。

それからざわつく狭い教室の中に、「何してるのあなたたち!」とお決まりの言葉を添えながら先生が入ってきて、あれよあれよと星子とその他女たちが連行されていった。

星子の手の甲の星が流れ星のように飛んで、綺麗に相手の頬にぶつかったのを思い出して僕はクスクスと笑う。

そして自分の手の甲をみた。

僕だって、

ーーー僕だって。



< 31 / 65 >

この作品をシェア

pagetop