さりげない、あと





私は『スター国物語』を自分の部屋に持って入り、ベッドに仰向けに寝転んだ。
そしてノートを開く。

丸っこい字は時々何か怒りを込めたように筆圧が濃くなって、敷き詰められている文字が手の側面によってすれたように黒くなっていた。
父の教え子だとしたら、小学生だろうか。

そして1人で書かれたものではなく、もう1人とリレー形式で交互に物語が紡がれていた。

主人公のリンデルはお金持ちでみんなが羨むお姫様。そんな彼女が恋をしたのは貧乏だけどとんでもなくイケメンのワンド。

2人はロミオとジュリエットのように惹かれあっていくがそこで邪魔しにくるのが悪党集団。


「…ラブロマンスじゃないのかな、これ」

パラっとページを捲りながら私は堪えきれない笑みをこぼして独り言を響かせる。
どうやら、丸っこい字の方はなんとかプリンセス物語にもっていこうとしているのを、もう1人のの達筆な方が、国をめぐるバトル系の話に強制的に変えている。

気持ちのぶつけ合いか何かだろうか。

そしてリンデルとワンドが距離を縮めていこうとすると、必ず悪党集団の邪魔が入る。

その名前が、

「“アイマイ”」

そして、そのその集団のリーダーの名を、

「“ペリク”ね」

彼らはただリンデルやワンドの邪魔をしたくて侵略を進めているのかと思いきや読み進めていくとどうやら違うようであった。

国に眠る、『レホメディ』という魔法の粉を手に入れるために暴れているらしい。

アイマイのリーダー、ペリクはリンデルを追い詰めてこういう。


「きみは、その貴重な魔法の薬をワンドにつかうつもりかい?

所詮はすぐに消えてなくなるような、恋心だろう。はやくレホメディと一緒にこっちに来い」


思わず私は、ペリクが放ったその言葉を感情を込めて読んでみた。
彼は、リンデルのことが好きなんだろうか。
いや、なんだか違う気もする。

レボメディの正しい使い道を、リンデル自身に問うているのか。

君にとっての正義ってなんなのだ。

半殺しにされたワンドをレホメディで生き返らせること?本当にそれでいいのか?

まあ、小学生がそこまで考えて物語を書いているのかは定かではないけれど。

狭い世界で生きているリンデルを、引き摺り出すために、ペリクは悪になったのだとしたら。

私が書きたいのはこっちだ。

ペリクは、仮面を被っておりその仮面を脱げば端正な顔をのぞかせるという。

見事にリンデルは心揺らいでいる描写があり、なんとも小学生の女の子の頭の中らしくて思わず微笑んだ。

そして、SNSにより端正な顔立ちが発信されバズってしまった依田先輩が思い浮かぶ。

「…よし」

私はノートを机の端におき、先ほど放り投げた何も書いていないまっさらなそれに少しずつ文字を連ねていった。


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