さりげない、あと



私は女に囲まれている三瀬くんを遠く離れた端の方で見つめながらビールを一口飲んだ。まあ、こうなるよね。
正直、誤魔化さずに言うと嫉妬をしているのだと思う。
嫉妬の感情を押さえ込むためにこのスピードでお酒を飲んでいれば潰れてしまうことだって自覚していた。


「三瀬くんって彼女いるんだっけ?」


「いないですよ」


「へえ!前の仕事は何してたのー?」


「秘密です」


「じゃあじゃあ最後に彼女いたのはいつ?」


「うーん、覚えてないですね」


三瀬くんの隣に座っている女の手が三瀬くんの太ももに触れたのを視界に入れる。またビールを一口。美味しくない。
口の中を紛らすように枝豆をつまむ。


「川北、お前結構飲めるんだな!ほら、これも飲め!」


正面に座っている部長が私の前にジョッキのビールを置いた。

断ることもできず「ありがとうございます」と少しの怒りをこめて歯を食いしばりながら言うが、酔っ払っているのか部長は私の分かりやすいそれには気づいておらず豪快に笑っている。はあ、帰りたい。

ため息をつきながら空になったジョッキを端に寄せて部長から差し出されたそれに手を伸ばした。


「お酒、弱いんじゃなかったんですか」


伸びてきた手にそれは奪われた。ジョッキを目で追うと、先程まで女たちの中心にいた三瀬くんが私の隣に座る。
「ちょっと失礼しますね」と無理やり隣に入り込んできた三瀬くんが「ビールいただきますね」と私に笑いかけた。

「おお、三瀬!お前あっちに行ってなくていいのかー?女たちがすごい顔してこっち睨んでるぞ!」


部長、声大きいです。ちらりと先程まで三瀬くんがいたところに目を向けると女たちが猜疑心剥き出してこちらを睨んでいた。ひええこわい。


「部長と教育係の星子さんを蔑ろにできるわけないじゃないですか」


「あははっ、それもそうだな!」


満足げに笑う部長とは裏腹に私はぎこちなく笑みを浮かべる。
私が飲もうとしていたビールは三瀬くんが半分以上飲んでいた。


「三瀬くんはお酒が強いんだね」


「まあ、それなりにです」


「ふーん」


「お水頼みますか?」


「うん、そうしようかな」


三瀬くんが通りかかった店員さんに「お冷ください」と声をかける。
そんな姿をぽけっと見ていると私を視界に入れた三瀬くんが困ったように笑う。


「弱いって分かってるのになんでそんなに飲んでるんですか」


分かんないでしょうよ、私の気持ちなんて。



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