キスより甘い毒りんご
ドレッサーの前でサッと髪を整えて、顔が汚かったら嫌だから拭き取り化粧水でケアを。

パジャマのままだったけれどバタバタと姿を現した私に、ママは本心なのか嫌味なのか分からない調子で
「まったく。あんたを見ると安心するわ」って言った。

「どういたしまして」

「なによ、それ」

「べつにー?ママの娘ですからね」

「はいはい」

「てか何コレ」

玄関を上がったところにも、玄関の前にも山積みの段ボール箱。
開け放たれたドアが閉まらないようにストッパー代わりにされている。

「白雪ちゃんがいつも使ってる日用品とかお洋服。無いと不便でしょ。ママの親友夫婦が事前にまとめててね。今マネージャーさんがトラック手配して運んできてくれたのよ」

「マネージャーさんが運転して?」

「まさか。大手事務所よ?契約会社くらいあるんでしょ。ライヴの機材とかだって運ぶんだし」

「ふーん?」

「ママだって憶測よ」

「ふーん?まぁ、」

「一般人だからね?」

顔を見合わせて笑った。

「今、エントランスで白雪ちゃんとお話されてるから。後であんたもご挨拶なさい。その前にこれ、運ぶの手伝って」

「待って!超特急で歯磨きしてくるから!」

「まったくもう……」
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