キスより甘い毒りんご
挨拶を交わしたマネージャーさんは気さくな男性だった。

二十五歳と、業界の中では若手みたい。
新卒で事務所に入社。
研修を経て、記念すべき初担当として白雪ちゃんに就いたらしい。

国民的アイドルが初担当なんて大抜擢だと思う。
相当優秀なマネさんなのだろう。
業界のことなんて知らないけれど。

「どう?安心した?″ルームシェア相手″が可愛い女の子で」

可愛い……!?白雪ちゃんってば軽率なんだから……。

「そうだね。安心したよ」

否定することもなくマネさんもニコッて笑った。

白雪ちゃんとの仲も良好らしい。
知れば知るほど白雪ちゃんの人柄が窺える。

「それでは野々井さん。僕はこれで失礼致します。どうぞ森野を宜しくお願い致します」

「こちらこそ。何かありましたらお互い協力し合いましょう」

ママとマネさんが握手を交わして、マネさんは事務所の車で帰っていった。
トラックは運んできてくれた業者さんと共に既に姿を消していた。

「相当仲がいいんだね。白雪ちゃんを″森野″だなんて呼び捨てにして」

一瞬きょとんとした白雪ちゃんがくすくす笑って、
ママが子どもに言って聞かせるような顔で「社会ってそういうものなのよ」って言った。
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