キスより甘い毒りんご
帰宅した白雪ちゃんは″ルンルン″って文字が顔の横に見えるくらいに、どう見てもルンルンだった。

「ただいまーっ!」ってよく通る声でリビングのドアを開け放った白雪ちゃんはルンルンを張り付けた表情で
「のの!ただいまっ!」ってソファでテレビを観ていた私に抱きついてこようとしたのも一瞬のこと。

まるで私以外の周りの世界を一切遮断していたかのような反応で、
私の隣に座る結をようやく視界に入れて「キャッ……」って飛び上がった。

事件はその後だ。

「あ、白雪ちゃん。紹介するね。藤森結。私の彼氏」

数秒、時間が止まった気がした。
スッと白雪ちゃんが息を吸った、その瞬間。

野々井家に響き渡る、鍛え抜かれた肺活量から生み出されたスーパーアイドルの悲鳴。

その直後に訪れる静寂。

ママとパパは二人でディナーデートに出掛けていて
帰宅が遅くなるかもしれないからと(本当に遅いけれど大人ってこういうものなのかな)両親の承諾を得て結を召喚していたのだけれど。

どうやらそれが白雪ちゃんの導火線に触れたらしい。

国民的スーパーアイドルだ。
事情はどうであれ、やっぱりプライベートで一般人の男性と交流を持つとヤバいのかもしれない。

なんて申し訳なく思ったけれど、どうやら違うらしい。
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