キスより甘い毒りんご
二十一時を過ぎた頃に白雪ちゃんは帰ってきた。
って言っても、朝六時には出ていったみたいだから決して早いご帰還ではないんだけど……。

「のの!これ、昨日言ってたパス!」

「パス?」

「もー、忘れちゃったの?ドラマ撮影のこと!」

「忘れてないけど、パスって?」

「局に入ったらこれを警備員さんに見せれば顔パスできるようにしてるから!」

「なるほど」

「見学中はずっと首に下げといてね。失くしちゃいけないから」

「うん。ありがと」

「こっちは悔しいけど結くんの分」

「用意してくれたの?」

「言ったけど、″悔しいけど″ね!」

「あはは」

「でもまぁ私が素敵だってところ見せつけるチャンスだし?ののにとって私のほうが魅力的だって思い知らせる算段よ」

ふふん、って白雪ちゃんは得意げに流し目で口角を釣り上げた。

これが打算的だって言うのならなんて可愛い策略家なんだろうと思う。
なんで結を敵視しているのかは不明だけど。

「結は知ってるよ。白雪ちゃんがどれだけ素敵な女の子か」

「まだだめよ!私のことなんて知ってるわけないじゃん!テレビだけじゃ分かんないこといっぱい見せつけるんだから」

「そっか。私にも見せてくれる?」

「当たり前でしょ。ののが一番分かっててくれなきゃだめじゃん」
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