キスより甘い毒りんご
「白雪ちゃんは恋はしてないの?」

「結くんっていう王子様が存在してるののには悪いけど、世の中は恋愛だけがすべてじゃないもの」

「それはそうだけど」

「もしも白馬の王子様が現れて毒りんごなんて食べさせられちゃってさ、何食わぬ顔でキスなんてされちゃったら私は一生死んだふりしてやるの。お前のキスなんかじゃ目覚めない。王子様のキスでお姫様は死にましたって、古来から伝わる物語なんてぶち壊してやる」

「あはは。歪んでるなぁ。そもそも毒りんごを食べさせてくるのは悪い魔女だし、あの物語がそんなに古来かどうかも謎だし。恋愛に恨みでもあるの?」

「無いわよ。別に経験が豊富なわけでもない。悔しいだけよ」

「悔しい?」

「私はこーんなにののに夢中なのに?ののは愛とか恋とかに夢中みたいですから。私が女ってだけでそれ以上に夢中にはなってくれないのかなって」

「そんなこと!私だって……っていうか憧れだし尊いし、こんなの贅沢過ぎるし……もうよく分かんないよっ」

「じゃあさ、のの」

「なんですか…」

「ののが食べさせてよ。毒りんご」

「はぁ?」

「そしたらその毒で私は一生あなたに恋をしてる。誰のキスでも目覚めたりなんかしない。一生あなたの毒に侵されて生き続けるわ。愛とか恋とか、そういう分かりやすいもののほうがあなたは安心するのなら、ね」

「迷惑です、とても」

「迷惑そうな顔も可愛いわよ」

「もー揶揄(からか)わないでよ」

「初めてね。乱暴な言葉を私に遣ってくれたの」

「なんで嬉しそうなの」

「やっと対等に扱ってくれたからよ」

「……そっか。寂しかった?」

「えぇ。とても」

「ごめん」

「やっぱり優しいね。のの」

「もう……。早く寝よ。撮影、明日なんでしょ」

「忘れないでちゃんと来てね?」

「もちろん」
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