キスより甘い毒りんご
同じ世界で生きてるんだって教えて欲しかった
現実とは違うようなところで人の気配がする。

ガサゴソと布が擦れ合うような音。
私を気遣うように、慎重に動く音。

明晰夢かな、って思った。

夢を見ながらもはっきりと自分の意識が同じ場所に存在している。
夢の中の自分に指示を出そうとして集中してみるけれど、
その意識はいつだってうまく飛ばせない。

なんてボヤけた思考回路でぼんやりと考えている。

考えている……そうだ。
これは明晰夢でもなんでもない。

現実だ……って思った瞬間にハジかれるように目が覚めた。

ガバッと飛び起きた私に驚いた白雪ちゃんがショルダーバッグを肩に掛けながら
寝起きの汚い私の顔を覗き込んだ。

「ごめん。起こしちゃったね」

「なんじー……?」

「まだ五時よ。もう少し寝てて」

「もう行くの……?」

「リハーサルと、もう少し台本、読み込みたいから」

「そっか」

「ののは十時過ぎくらいに来てくれたらいいからね」

「分かったぁ。気をつけてね」

「いってきます」
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