キスより甘い毒りんご
白雪ちゃんはにっこり笑って、手を振ってくれたんだと思う。

寝ぼけていたし、カーテンを閉め切って電気も点けていないから
白雪ちゃんの表情はよく見えなかった。

ぽすん、ともう一度枕に頭を沈めた。
目を瞑って、白雪ちゃんが歌やダンスのレッスン、ドラマの撮影、雑誌のインタビューを受けたり、
″業界″の人達と楽しそうに過ごしている白雪ちゃんの姿を想像してみた。

白雪ちゃんは完璧だった。

おうちで私達と同じ、ごく一般的な食事をしている時も、
お風呂上がりの素の白雪ちゃんも、
眠っている時の寝息でさえ。

本当におとぎ話のお姫様だって言われたって
きっと誰も疑ったりしない。

どんなに近い距離で白雪ちゃんの体温を感じていたって
業界のことを思うとやっぱり違う世界の住人。
遠い存在だって思ってしまう。

そんなこと言ったら白雪ちゃんはすごく怒るし悲しむだろうけど。

どうしたってやっぱりそれは事実な気がする。

それは自分に誇れるものがなんにも無いからだ。
誰かよりも秀でた何か。

容姿も特技も貫きたい趣味も、
私にはパッと出てくるものが何も無い。

だからこそ結が私を好きでいてくれることは奇跡に近い。

白雪ちゃんが私をとびきりの存在だって言ってくれた時、
恥ずかしくない存在でありたい。

あんなに素敵な子に、私の存在がマイナス効果になっちゃ絶対にだめなんだから。
< 29 / 85 >

この作品をシェア

pagetop