キスより甘い毒りんご
ロビーを無事に通過できた私達を白雪ちゃんのマネさんが待ってくれていた。

「ようこそ。白雪さんも楽しみにしてますよ」

この前は″森野″って言っていたけれど
今日は″白雪さん″って呼んだ。

普段の呼び方がそっちなんだろうな。
社会に出ると呼び方ひとつで社会人の常識が問われるなんて大人って大変だ。

私はずっと親しみを込めて″白雪ちゃん″って呼んでいたいけれど
大人になったら許されないことも増えてしまうのかな。

マネさんは私達を白雪ちゃんの楽屋まで連れていってくれた。
撮影シーンの順番が来るまで台本の再確認をしているみたい。

「白雪さん。野々井さん達、来てくれたよ」

先に扉を開けて白雪ちゃんに声をかけたマネさんの向こう側から
「のの!」って快活な声が聞こえた。

「僕はスタジオの状況確認に行ってますね。また呼びに来ますから」

私と結が双子みたいに同時にマネさんにペコッて頭を下げるのを
白雪ちゃんは微笑ましそうに見ていた。

「白雪ちゃん。招待してくれてありがとう」

「別にあなたの為じゃないわよ。私はののに楽しんで欲しくて。でもきっとののは一人だと心細くて来てくれないでしょ?だからあなたを利用しただけなんだから」

持っていた台本をテーブルに置いて白雪ちゃんは結からふんって顔を逸らした。
なんて華麗なツンデレなんだろう。
結もそれに気づいていて、まるで妹を見るような表情をしている。
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