キスより甘い毒りんご
撮影にカットがかかるたびに白雪ちゃんは私達のほうを見て小さく手を振ってくれる。

目には見えないけれど白雪ちゃんと私の間に、運動場にはっきりと描かれた白線が見えるような感覚に陥る。
私の背後にピッタリと誰かがくっついていて、
白雪ちゃんは本当は私のことなんか見てもいなくて、
知らない誰かに手を振っているみたいだった。

生きてる世界が違うってことくらいずっと解ってる。
別に特別なことなんてしていない毎日の中で、なぜだか神様が突然に与えてくれたご褒美期間に過ぎない、と思えてくる。

こんなにとびきりな日々がいつまでもいつまでも続くなんて思えないよ。

白雪ちゃんはどうしたって私とは違う。
選ばれた、特別な人間なんだ。

だって私は今だってこんな風に白雪ちゃんからときめきを受け取っているけれど
私がしてあげられていることなんてきっと無い。

ご両親が海外に移住してしまって、しばらくの間、暮らしを確保してあげてるのは私の両親だし
私はただ眠るスペースを提供しているだけの、なんの取り柄もない一般の一般の一般の、ちょー普通の女子高生だ。

もう飽きたって言われてしまうのが怖い。
こんなつまんない生活早く終わればいいのにって。
いっそ海外についていけばよかったっていつか言われてしまうんじゃないかって。

白雪ちゃんを知れば知るほど自分のちっぽけさが怖くなる。

「どうした?疲れちゃった?」

肩に結の手が置かれてハッとして結を見上げた。
心配そうに私を見つめている。

「全然?どうして?」

「ココ」

結の人差し指がピッと私の眉間に触れた。

「えー、もしかしてまた険しい顔してた?」

「してた」

「ごめん。でも平気だよ。白雪ちゃんはやっぱり凄いなって、自分にはなんにも無いなって落ち込んでただけ」

「なに言ってんだよ」

スッと背中をさすられて背筋がピンと伸びる思いだった。
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