キスより甘い毒りんご
「え……っと……ごめんなさい……。私、何か傷つけるようなことをしちゃった自覚がなくて……本当にごめんなさい。ちゃんと謝りたいから教えて欲しい」

顔を上げた白雪ちゃんは泣き出しそうな目をしている。

歌のお仕事の時の白雪ちゃんはいつもキラキラの笑顔だけど
ドラマや映画では泣きのシーンもあって、涙を流している顔も何度か観たことがある。

そのどれにも匹敵しないくらいの、
悲しそうな目をしている。

「私……やっぱりののとおんなじ普通の女子高生ならよかった」

「え」

「単刀直入に言うね。一緒にお祭りには行けない。ごめんなさい……」

「そっ……そんなことで悲しんでたの!?ごめん……私が白雪ちゃんの立場も理解しないで軽率に誘ったりしちゃったから。分かってるから大丈夫だよ。怒ったりしない。大丈夫だから」

「違うの」

「違う?」

「その日はスケジュールなんか入ってない。なんの予定も無い。それなのに私は大好きなののからの一年に一回しかないイベントのお誘いを断らなきゃいけない」

「うん……やっぱり難しいよね?分かってたよ。普通に遊びに行くのとはまたちょっと違うもんね。あんな人混みの中に白雪ちゃんみたいな有名人が行ってバレたら大変だし。騒ぎになっちゃうもんね」

「そんな風に……そんな風に私を擁護して理解されるのもツラいよ」

「白雪ちゃん……?」

「私、ほんとはののとお祭りに行きたかった。ののと一緒に学校に通うお友達みたいにさ。夏休みの宿題に追われたり息抜きとか言ってカラオケとか映画とか行って、一年に一回のお祭りの約束をして……そんな風に過ごしたかった。でもそれができない。ののからメッセージを貰った時、私のことを考えてくれてることがすごく嬉しかった。でも断らなきゃいけないんだって思ったらののにも申し訳なかったし、自分はこの世界に居る限り、プライベートではそういうことしちゃいけないのかなって……」

白雪ちゃんの透き通りそうなほど白い頬に涙が伝う。

当たり前の私達の日常が白雪ちゃんにはない。

こんなにも大勢の人達に夢や希望、ときめきを与えてくれる白雪ちゃんなのに
白雪ちゃんは女子高生としての当たり前の日常を今までどれだけ諦めてきたんだろう。
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