キスより甘い毒りんご
「あー……ファンの子?」

「違います……って違くないんだけどそうじゃなくて……」

「押しかけはだめよ。度が過ぎるとケーサツ沙汰」

戦隊俳優さんの隣の女性が子どもを諭すように言った。

一歩、足を前に踏み出した私の背中に結が触れた。

「突然すみませんでした。でも緊急事態で……こちらに森野白雪さんはいらっしゃいますか?彼女は今、白雪さんと一緒に暮らしている子です。さっき白雪さんから連絡があったんですけど様子がおかしくて」

「野々井です。野々井のの。白雪ちゃん、今日はずっとレッスンしてるって言ってたんですけどちょっと慌ててるような電話が来て……」

「え。事件?」

そばに居た男性がタクシーの運転手さんみたいなことを言った。

「確かに……最近お世話になってるご家族がいらっしゃるとは聞いてるけど……証拠はある?あなたが本人かどうか」

「これしか……」

今は証明できる物が白雪ちゃんからの着信履歴しか無くて、スマホを女性に見せた。
女性は自分のスマホを取り出して確認した。

「確かに白雪ちゃんの番号ね……。白雪ちゃんなら……十九時くらいには出てるわよ。ほら、新美(にいみ)さんと一緒に……」

「あー……あーあー、そうだ。なんか白雪ちゃんグッタリしてるみたいでさ。どうしたんですかって訊いたらたぶん脱水症状だろうって。うちまで送ってくって」

十九時前なんてまだ花火も打ち上がっていない頃だ。
その時は既にここにも居なかった……?

「新美さんって白雪ちゃんのマネージャーさんですよね?」

「うん。そうだよ」

「″うちに″に送ってくっておっしゃってたんですか?」

「うん」

少なくとも野々井家には送られていない。
それならママから連絡があるはずだし、何かがあって助けを求めるなら電話じゃなくてママを呼んだほうが早いんだから。
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