キスより甘い毒りんご
「まずは本当にありがとうございます。ののさんは当然、野々井家の皆さんと……結さん、とおっしゃいましたか。彼も、命の恩人です。あのままだったら白雪さんが重症化していた可能性がありました」

「きみもだよ、新美くん。いやしかし病院の先生もおっしゃっていました。順を辿れば白雪や新美が軽傷で済んだことは奇跡だと。ののさんが発見してくれたことと、彼らの生命力の奇跡です」

「本当に心から感謝いたします。あの日、白雪さんは十三時頃に事務所に到着しました。外はひどく蒸し暑かったし、こちらのほうでお祭りがあったのでいつもより人通りも増えているかと思い、マンションまで迎えに行くと申し出たところ、たまには歩かないと運動不足になると言うので、その日はその言葉に甘えてしまい僕は事務所で待機していました」

「えぇ、間違いないわ」

「スタジオについてすぐにボイストレーニングが始まりました。大体十六時過ぎまでやっていたと思います」

私と結が映画を観終わった頃だ。
夕方前なのにまだまだ太陽が高く昇っていたことを憶えている。

「ボイトレのレッスン中、白雪さんは″今日はやけに喉が渇く″と言って、いつもより水分を摂取していたように思います。ボイトレの先生も同様に、″今日は一段と蒸す″と言って」

「水分はきちんと摂っていたのね?」

ママに訊かれて白雪ちゃんは頷きながらも、
「珈琲も飲んでたから……」と言った。

珈琲にはカフェインが含まれている。
カフェインには利尿作用があるから運動したり汗をかいて、更に水分を出してしまう可能性がある。
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