キスより甘い毒りんご
「その点も僕がきちんと注意するべきでした。ボイトレスタジオ内は涼しく設定されているし……と過信していました。マネージャー失格です」

「新美くんだけの責任なわけないだろう。日頃から重々指導していなかった私に責任がある」

「私の自己管理の甘さもよ」

「ボイトレ中は体調は大丈夫だったの?」

「えぇ。体調が悪化したのはダンスレッスン室に移ってからだった。冷房は強めに設定していたんだけどね。その日、先生にレッスンをつけてもらう予定はなくて。私の他に利用してる子も居なかったから練習にかなり熱中しちゃって……。水分を摂るのも忘れちゃうくらいに」

「その時僕は残してる作業があって。白雪さんも集中したいから一人のほうがいいと僕を退出させてくれたのでそばには居ませんでした……。十八時になる前だったと思います。レッスン室に様子を見に行くと白雪さんがミラーの前にへたり込んでいて……」

「急に目の前が真っ暗になってね。立ち上がったら嘔吐しちゃいそうになって……」

「ひどく冷や汗をかいていたのですぐに脱水症状だと思いました。その時点で救急車を呼ぶべきだったんです…」

「私が止めたの。ちょっと休んでれば大丈夫だって。とりあえず何か飲み物が欲しいって言って、持ってきてもらったんだけどそれもやっぱり吐いちゃいそうだったからなんとか支えてもらって……」

「事務所の人達が言ってたよ。白雪ちゃんがグッタリしてて、マネさんと一緒に出ていったって……。十九時前くらいだよね」

「確か、そうだったわね。人を呼んでおおごとにもしたくなかったし、寝転んで様子を見たりもしたんだけど。私が言ったの。ここに連れて帰ってって。病院になんて行ったら騒ぎになるだろうし、帰って安静にしてればなんとかなるって思っちゃって」

「軽率だったな。騒ぎになることや迷惑をかけることよりも命を優先しなさい」

「はい……」
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