溺愛のち婚約破棄は許しません  副社長は午前零時に愛を絡めとる
欅の樹の下で

プロローグ

 アフォガートはイタリアのデザート、辻崎宗介はエスプレッソコーヒーではなくアッサムティーを好んだ。甘さ控えめのバニラアイスクリームにトプトプと香り高いアッサムティーが湯気をたてながら注がれた。

「いい香りです」

「ありがとうございます」

 辻崎 宗介(つじさきそうすけ)(38歳)は辻崎株式会社の副社長だ。14:00になると辻崎株式会社ビル2階のchez tsujisaki(しぇ つじさき)に現れ(けやき)の樹のガーデンテラス席に腰掛けた。

「オーダーはいつものアフォガートで宜しいですか?」

「はい、お願いします」

「かしこまりました」

 バニラアイスがとろけるガラスの器をダイニングテーブルに置いたパティシエールの名前は羽柴 果林(はしばかりん)(25歳)、木の実のような黒い瞳が印象的な面差しをしていた。

「アフォガートはイタリア語で あなたに溺れる という意味だそうですよ」

「そうなんですか」

「はい」

 果林は宗介が副社長である事を知らない。
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