溺愛のち婚約破棄は許しません  副社長は午前零時に愛を絡めとる
 果林はダイニングテーブルの拭き掃除を終えると携帯電話画面をタップした。

「にっ、24.000円(税抜)!」

 閉店後、インターネット検索で調べたところ、果林が宗介からプレゼントされた口紅の商品名は小町紅の雪月花、半月形のコンパクトは24金メッキで雪と月、菊の細工が施されアワビの青貝が七色に輝いている。江戸時代から続く紅花の口紅、その価格は24.000円(税抜)、これはちょっとした土産物などでは無かった。

「そ、宗介さん、このプレゼント贈る相手を間違えているよね!?」

 今頃、慌てているのではないかと思った果林は「明日お返ししなければ!」と金色のコンパクトをもう一度白い箱に戻し包装し直した。

「あーーー、びっくりした!」

 そしてもうひとつ驚いた事は手渡されたお守りの退職願だった。果林自身もその選択肢も有りかと考えていた矢先の出来事で全てお見通しと言わんばかりで驚くと共に迷っていた背中を押されたような気がした。

「果林、掃除はもう終わったのか」

「あっ、はい!」

「おまえ、携帯なんか見てサボるんじゃねぇよ!」

(あ、あなたがそれを言いますかーーーー!?)

 呆れて物も言えない。そんな時、木古内和寿がテーブルの上に置いてあった白い封筒を見つけた。

「退職願だぁ?」

「あっ、あのそれは!」

 杉野恵美がシフトに入った事で気が大きくなったのか木古内和寿は「ああ、いいよ!おまえなんか辞めても構わねえ!」と声を荒げた。

(・・・・・なんだ、そうかお店を辞めても良いんだ)

「では明日、退職届を書いて来ます」

「願いでも届けでもなんでも書いて来い!」

 果林は封筒を手に立ち上がった。
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