溺愛のち婚約破棄は許しません 副社長は午前零時に愛を絡めとる
宗介は大理石のフロアを果林を抱き抱えて横切った。その姿に女性社員は羨望の眼差しを向け、男性社員は驚きの声を上げた。
「そ、宗介さん」
「大丈夫ですか、背中は痛みますか?」
「いえ、大丈夫・・・だと思います」
我に帰った果林が背中に触れると鈍い痛みが走った。
(痛い!和寿め!暴力反対!いつか仕返ししてやる!)
宗介は社員用エレベーターホールで果林を床に降ろすとエレベーターにカードキーをかざし上階へのボタンを押した。
「さぁ、乗って下さい」
「宗介さん、私、お店を辞める事が出来たのでしょうか?」
「あなたはchez tsujisakiを退職しました。これまでご苦労様でした」
「あ、ありがとうございます」
エレベーターに乗った果林は4階の総務課のカウンターに社員証とロッカールームの鍵を返却するはずだった。ところがエレベーターは4階を通過し6階、7階と上昇している。7階は一般社員に解放されている屋上庭園、ここがビルの最上階の筈だった。
(・・・・・え、どういうこと?)
そこで果林は宗介が一枚のカードキーを階層ボタンの下にかざしていたことを思い出した。数字の無い階層を通過し不安気にしている果林に気付いた宗介は黒い階層ボタンを指差した。
「今、9階です」
「宗介さん!」
「はい」
「ここはどこですか」
「辻崎株式会社のビルです」
「そうですねって違います!そんな意味じゃないです!」
宗介は果林の慌てぶりに失笑した。
「宗介さん、い、今何階ですか!」
「16階です」
ぽーーーん
エレベーターの扉が開くと白い大理石のエントランスが目の前に広がった。両窓には可愛らしい小窓があり眼下には縮尺した街並みがどこまでも広がっていた。目を凝らせば遥か彼方に風力発電の風車と夕日が落ちる海が見えた。
(なに、ここはどこ!なに、なに、なに!)
宗介がカードキーをマホガニーの扉にかざすとカチッと軽い音がした。
「さあどうぞお入り下さい」
(・・・・ど、どうぞ?)
「さぁ、どうぞ遠慮なさらずに」
「あ、はい」
清潔感のある白い壁の廊下の奥に落ち着いた色合いのリビングが見えた。大きな観葉植物の鉢植えがいくつもあった。そして幅広の窓から柔らかな陽射しが降り注いでいる。
(ええと、ここはホテルですか?)
「あ、靴はそこで脱いで下さい」
どうやらエントランスで靴を脱ぐ形式らしい。
「はい」
果林の薄汚れたスニーカーが赤茶の革靴の隣に並んだ。
(・・・・うっ、この貧乏臭さよ)
果林の視点は定まらずキョロキョロと落ち着かなかった。
「宗介さん、あの、ひとつお尋ねしますがここはどこでしょうか?」
「私の部屋です」
宗介は果林を凝視すると真顔でキッパリと言い切った。
「私の部屋とはいわゆるご自宅ということですか」
「はい、この部屋に住んでいます」
「私は今、宗介さんのご自宅にお邪魔しているということになるんでしょうか?」
「はい」
「はいじゃありませんーーーー!」
いきなり一人暮らし(多分)の名前しか知らない男性の部屋に上がり込むなど言語道断。果林は踵を返して玄関へと向かった。
「お、お邪魔しました!失礼します!」
「そんなに急がなくても。痛いでしょう?背中に湿布を貼って差し上げますよ」
「それは自分でも出来ます、大丈夫です!」
「一人暮らしでは不便でしょう、さぁ、遠慮は要りません」
(ーーーーなんで一人暮らしだって知ってるの!?)
「お茶でも飲んでいかれませんか?」
「いえいえいえ、お気遣いなく、お邪魔しました!」
いつもの宗介とは明らかに違う強引な姿勢に果林は気圧された。
「いや、もうお構いなく!」
果林がエレベーターのボタンを押したが反応は無く扉が開く気配も無い。
「無駄ですよ」
振り返るとそこにはカードキーをヒラヒラとさせた宗介が微笑んでいた。
(目が笑っていない、笑っていないーーーー!)
「このカードキーが無ければエレベーターに乗ることは出来ません」
「ーーーーえっ!」
「さぁ、ご遠慮なさらずにお茶でもいかがですか?」
「今日はご遠慮いたします!今日は、もう疲れているのでまた今度!」
宗介は溜め息を吐いて仕方がないといった風にカードキーを階層ボタンにかざした。
「分かりました。また今度」
「はい!ありがとうございました!」
宗介は「ご自宅まで送らせて下さい」と言ったが果林は丁寧にお断りし、脱兎の如く辻崎株式会社のビルを後にした。
(あーーーー!焦った!)
紳士的だと思っていた宗介は意外な事に狼だった。
(た、食べられるかと思った)
しかしながらchez tsujisakiを辞めた今、宗介に会うことも無いと思うと少しばかり寂しかった。
「そ、宗介さん」
「大丈夫ですか、背中は痛みますか?」
「いえ、大丈夫・・・だと思います」
我に帰った果林が背中に触れると鈍い痛みが走った。
(痛い!和寿め!暴力反対!いつか仕返ししてやる!)
宗介は社員用エレベーターホールで果林を床に降ろすとエレベーターにカードキーをかざし上階へのボタンを押した。
「さぁ、乗って下さい」
「宗介さん、私、お店を辞める事が出来たのでしょうか?」
「あなたはchez tsujisakiを退職しました。これまでご苦労様でした」
「あ、ありがとうございます」
エレベーターに乗った果林は4階の総務課のカウンターに社員証とロッカールームの鍵を返却するはずだった。ところがエレベーターは4階を通過し6階、7階と上昇している。7階は一般社員に解放されている屋上庭園、ここがビルの最上階の筈だった。
(・・・・・え、どういうこと?)
そこで果林は宗介が一枚のカードキーを階層ボタンの下にかざしていたことを思い出した。数字の無い階層を通過し不安気にしている果林に気付いた宗介は黒い階層ボタンを指差した。
「今、9階です」
「宗介さん!」
「はい」
「ここはどこですか」
「辻崎株式会社のビルです」
「そうですねって違います!そんな意味じゃないです!」
宗介は果林の慌てぶりに失笑した。
「宗介さん、い、今何階ですか!」
「16階です」
ぽーーーん
エレベーターの扉が開くと白い大理石のエントランスが目の前に広がった。両窓には可愛らしい小窓があり眼下には縮尺した街並みがどこまでも広がっていた。目を凝らせば遥か彼方に風力発電の風車と夕日が落ちる海が見えた。
(なに、ここはどこ!なに、なに、なに!)
宗介がカードキーをマホガニーの扉にかざすとカチッと軽い音がした。
「さあどうぞお入り下さい」
(・・・・ど、どうぞ?)
「さぁ、どうぞ遠慮なさらずに」
「あ、はい」
清潔感のある白い壁の廊下の奥に落ち着いた色合いのリビングが見えた。大きな観葉植物の鉢植えがいくつもあった。そして幅広の窓から柔らかな陽射しが降り注いでいる。
(ええと、ここはホテルですか?)
「あ、靴はそこで脱いで下さい」
どうやらエントランスで靴を脱ぐ形式らしい。
「はい」
果林の薄汚れたスニーカーが赤茶の革靴の隣に並んだ。
(・・・・うっ、この貧乏臭さよ)
果林の視点は定まらずキョロキョロと落ち着かなかった。
「宗介さん、あの、ひとつお尋ねしますがここはどこでしょうか?」
「私の部屋です」
宗介は果林を凝視すると真顔でキッパリと言い切った。
「私の部屋とはいわゆるご自宅ということですか」
「はい、この部屋に住んでいます」
「私は今、宗介さんのご自宅にお邪魔しているということになるんでしょうか?」
「はい」
「はいじゃありませんーーーー!」
いきなり一人暮らし(多分)の名前しか知らない男性の部屋に上がり込むなど言語道断。果林は踵を返して玄関へと向かった。
「お、お邪魔しました!失礼します!」
「そんなに急がなくても。痛いでしょう?背中に湿布を貼って差し上げますよ」
「それは自分でも出来ます、大丈夫です!」
「一人暮らしでは不便でしょう、さぁ、遠慮は要りません」
(ーーーーなんで一人暮らしだって知ってるの!?)
「お茶でも飲んでいかれませんか?」
「いえいえいえ、お気遣いなく、お邪魔しました!」
いつもの宗介とは明らかに違う強引な姿勢に果林は気圧された。
「いや、もうお構いなく!」
果林がエレベーターのボタンを押したが反応は無く扉が開く気配も無い。
「無駄ですよ」
振り返るとそこにはカードキーをヒラヒラとさせた宗介が微笑んでいた。
(目が笑っていない、笑っていないーーーー!)
「このカードキーが無ければエレベーターに乗ることは出来ません」
「ーーーーえっ!」
「さぁ、ご遠慮なさらずにお茶でもいかがですか?」
「今日はご遠慮いたします!今日は、もう疲れているのでまた今度!」
宗介は溜め息を吐いて仕方がないといった風にカードキーを階層ボタンにかざした。
「分かりました。また今度」
「はい!ありがとうございました!」
宗介は「ご自宅まで送らせて下さい」と言ったが果林は丁寧にお断りし、脱兎の如く辻崎株式会社のビルを後にした。
(あーーーー!焦った!)
紳士的だと思っていた宗介は意外な事に狼だった。
(た、食べられるかと思った)
しかしながらchez tsujisakiを辞めた今、宗介に会うことも無いと思うと少しばかり寂しかった。