溺愛のち婚約破棄は許しません  副社長は午前零時に愛を絡めとる
 果林は焼き鳥の缶詰にラップを掛けると手を洗いローテーブルの前で正座をした。

「いざ!」

 息を止めながらハサミを入れると薄水色の封筒には数枚の書類が入っていた。

(なんですか、これ)

 その書類には辻崎ビルにApaiser(アペゼ)という新しいパティスリーがオープンするので企画準備段階からその後の運営に関わって欲しいという内容だった。数日中に返答すれば辻崎株式会社の人事課で面接が行われる。採用が決まれば6月中旬から勤務開始と記載されていた。

「・・・・こっ!これは!」

 こんなに美味しい話があるだろうか!果林は書類を手にリビングルームでクルクルと喜びのダンスを踊りアパート1階の住人から注意を受けた。携帯電話を手に画面をタップする。メールの宛先は辻崎株式会社の総務課だ。

「ぜひともよろしくおねがいいたします はしばかりん」

 是非とも宜しくお願い致します、羽柴果林。果林は1文字1文字ゆっくりと入力してメールを送信した。

「えいっ!」

 シュン!と音を響かせてメールは送信済みメールボックスに入った。

「採用されたいなぁ!いや、される、採用一択!これしかない!」

 果林の背後は断崖絶壁、このチャンスを逃す訳にはゆかない。

(・・・・にしても)

 退職願の封書を果林に「お守りです」と持たせ退職届を総務課部長と人事課部長に手渡したのは辻崎宗介だ。そして今、この薄水色の封筒と薔薇の花束を届けてくれた。辻崎宗介は果林の人生の水先案内人だ。

「一体、何者なんだろう」

 果林はチェストの上に置かれた小町紅の金色のコンパクトを見つめた。
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