溺愛のち婚約破棄は許しません  副社長は午前零時に愛を絡めとる
コンコンコン

「失礼します」

 果林は肩までの髪をひとつにまとめ不本意だが菊代の香りがするワイシャツを着て面接会場となる総務課会議室の扉を3回ノックした。深くお辞儀をして顔を上げると総務課部長、人事課部長、その隣には鼻筋の通った切れ長の目でスポーティーな雰囲気の宇野(うの)と名乗る若い男性が座っていた。宇野はApaiser(アペゼ)の企画部長だと紹介され、果林は握手を求められた。

「宜しくね。果林ちゃん」

(か、果林ちゃん!?)

 果林が宇野の馴れ馴れしさに驚いていると人事課部長が眼鏡を上下させた。

「それでは羽柴さんは6月15日付けでApaiser(アペゼ)企画室に配属されます。雇用契約書にご同意頂けるようでしたらサインと印鑑を捺して6月14日までに一度総務課までいらして下さい」

「は、はい?」

「なにかご質問でも?」

「あの、私は御社に採用されたと言う事でしょうか?」

「はい、なにかご不満でも?」

「いっ、いえ、そんな不満だなんてとんでもない!」

 どうやら面接とは名ばかりで果林の採用は事前に決まっていたようだ。
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