溺愛のち婚約破棄は許しません 副社長は午前零時に愛を絡めとる
記念撮影から数日後、Apaiserの水回りの設備が大方仕上がったとの連絡が入った。そこで宇野が企画室のメンバーで店内の仕上がり具合を確認しに行こうと提案した。
「えっ、私も見に行って良いんですか!?」
「そうだよね、果林ちゃんは一度も現場に入っていないけれどどうして?」
「はい、宗介さんが危ないから行っては駄目だとこれまで許可が降りませんでした」
「宗介が?あいつ果林ちゃんを束縛しすぎだろう」
「束縛、束縛なんでしょうか?」
「店の仕上がり具合、見てみたいでしょう?」
「はい!見たいです!」
「配線はまとめてあるし天井も仕上がっているから大丈夫。問題ないよ」
「はい!」
果林はようやくあの欅の樹に対面出来ると胸弾ませいそいそとヘルメットを被り2階への階段を降りた。宇野は果林と木古内和寿を会わせるべきではないという宗介の真意を知らなかった。木古内和寿はApaiserの工事現場を疎ましく思いながら現在も赤字すれすれの営業を続けていた。
(果林を連れ戻せば客も戻る!)
木古内和寿はその一心で休憩時間や休日を利用して果林が勤めそうな近隣の洋菓子店を探し回っていた。
「うわぁ!」
Apaiserの壁や床はコンクリートが剥き出しのままだが照明の配線やガーデンテラスを仕切るガラス扉は既に設置されていた。出入り口はオープンテラス形式で折り畳み式の木枠の扉、ガラス面には流れるような曲線でApaiserのロゴが入っていた。
「宇野さん、素敵なお店になりそうですね」
「なかなか良い雰囲気だね。chez tsujisakiは鉄骨が剥き出しで無機質な印象だったけれど、Apaiserは木材をふんだんに使うからきっと温かみを感じる店になるよ」
「あの、その事なんですが・・・・」
「なに?」
「chez tsujisakiはどうなるんでしょうか?」
果林はchez tsujisakiが今後如何なるのかを尋ねてみた。木古内和寿はテナント料を3ヶ月滞納し経営状態も悪化、需要と供給が合致しておらず提供される焼き菓子や飲料についても社員からの評判が好ましく無い。やむを得ず閉店を視野に入れているのだと小耳に挟んだ。
「閉店になるみたいだよ」
「そんな」
「ああ、果林ちゃんはchez tsujisakiで働いていたんだよね」
「はい」
「店が無くなるのは寂しい?」
果林にとってchez tsujisakiには良い思い出などひとつもなかった。ただ閉店になるとすればあの欅の樹や燕の巣が処分されるのではないかと思い胸が痛んだ。
「あの樹は如何なるんでしょうか」
「あぁ、あれは残すみたいだよ。chez tsujisakiの店舗を撤去した後、あの場所はフリースペースとして解放するらしいから」
「そうなんですね、良かった」
「なに、あの樹になにか思い出でもあるの」
「はい、温かい思い出です」
果林の頬は赤らんだ。
「なーーに、気になるなぁ、教えてよ」
「内緒です」
宗介は毎日14:00になるとあの欅の樹を眺める席に座っていた。彼が店を訪れると心が和み、果林にとっては癒しの存在だった。果林はアフォガートをオーダーしていた薄い唇を思い出した。
「えっ、私も見に行って良いんですか!?」
「そうだよね、果林ちゃんは一度も現場に入っていないけれどどうして?」
「はい、宗介さんが危ないから行っては駄目だとこれまで許可が降りませんでした」
「宗介が?あいつ果林ちゃんを束縛しすぎだろう」
「束縛、束縛なんでしょうか?」
「店の仕上がり具合、見てみたいでしょう?」
「はい!見たいです!」
「配線はまとめてあるし天井も仕上がっているから大丈夫。問題ないよ」
「はい!」
果林はようやくあの欅の樹に対面出来ると胸弾ませいそいそとヘルメットを被り2階への階段を降りた。宇野は果林と木古内和寿を会わせるべきではないという宗介の真意を知らなかった。木古内和寿はApaiserの工事現場を疎ましく思いながら現在も赤字すれすれの営業を続けていた。
(果林を連れ戻せば客も戻る!)
木古内和寿はその一心で休憩時間や休日を利用して果林が勤めそうな近隣の洋菓子店を探し回っていた。
「うわぁ!」
Apaiserの壁や床はコンクリートが剥き出しのままだが照明の配線やガーデンテラスを仕切るガラス扉は既に設置されていた。出入り口はオープンテラス形式で折り畳み式の木枠の扉、ガラス面には流れるような曲線でApaiserのロゴが入っていた。
「宇野さん、素敵なお店になりそうですね」
「なかなか良い雰囲気だね。chez tsujisakiは鉄骨が剥き出しで無機質な印象だったけれど、Apaiserは木材をふんだんに使うからきっと温かみを感じる店になるよ」
「あの、その事なんですが・・・・」
「なに?」
「chez tsujisakiはどうなるんでしょうか?」
果林はchez tsujisakiが今後如何なるのかを尋ねてみた。木古内和寿はテナント料を3ヶ月滞納し経営状態も悪化、需要と供給が合致しておらず提供される焼き菓子や飲料についても社員からの評判が好ましく無い。やむを得ず閉店を視野に入れているのだと小耳に挟んだ。
「閉店になるみたいだよ」
「そんな」
「ああ、果林ちゃんはchez tsujisakiで働いていたんだよね」
「はい」
「店が無くなるのは寂しい?」
果林にとってchez tsujisakiには良い思い出などひとつもなかった。ただ閉店になるとすればあの欅の樹や燕の巣が処分されるのではないかと思い胸が痛んだ。
「あの樹は如何なるんでしょうか」
「あぁ、あれは残すみたいだよ。chez tsujisakiの店舗を撤去した後、あの場所はフリースペースとして解放するらしいから」
「そうなんですね、良かった」
「なに、あの樹になにか思い出でもあるの」
「はい、温かい思い出です」
果林の頬は赤らんだ。
「なーーに、気になるなぁ、教えてよ」
「内緒です」
宗介は毎日14:00になるとあの欅の樹を眺める席に座っていた。彼が店を訪れると心が和み、果林にとっては癒しの存在だった。果林はアフォガートをオーダーしていた薄い唇を思い出した。