溺愛のち婚約破棄は許しません 副社長は午前零時に愛を絡めとる
「宇野さん届きましたよ!」
企画室スタッフの1人が重そうな野菜コンテナを持って店内に駆け込んだ。
「もう届いたの!早いなぁ、カリンと名の付く物には手が早いんだな」
「カリン?私の事ですか?」
「そうそう」
「なにが早いんですか」
宇野は屈み込んで果林の耳元で囁いた。
「宗介、あんな顔して女には奥手なんだぜ」
「女の人・・・奥手」
「そう。それがまぁ、果林ちゃんに関しては電光石火って感じ」
「・・・で、んこうせっ」
「超〜手が早ぇって事だよ」
「そ、そうなんですね」
果林にとってなにがどう電光石火なのか眉間にシワを寄せていると宇野がニヤついた顔で見下ろした。
「あいつ果林ちゃんにプレゼントとかしなかった?」
「はい、頂きました。お土産とか誕生日の花束とか入社のお祝いのシャツも」
「くそ〜、まじか俺のアドバイス全コンプリートかよ」
額に手を当てて天井を仰ぐ宇野を尻目に果林が野菜コンテナの中を覗き込むとオリーブの苗木が何本も入っていた。
「庭園にオリーブも植えるんですか」
「そうそう、向かいのビルからの目隠しにもなるからね」
果林はその中に初めて見る苗木を見付けた。
「これはなんですか」
「これがカリンの苗木だよ、かなり急がせたみたいだよ」
「これがカリン」
「ピンク色の花が咲くんだとさ」
「実もなるんですか」
「そりゃあ、わっさわっさ」
コンテナの前に座り込んだ果林は宇野を仰ぎ見た。
「わっさわっさ、ですか」
「果林ちゃん、俺とわっさわっさしちゃわない?」
「わっさわっさ」
「そう、わっさわっさ」
果林は人の気配を感じた。
「う、宇野さん、宇野さん後ろ!」
宇野の背後には眉間にシワを寄せ青筋を浮き立たせた宗介が仁王立ち、それまで調子の良かった宇野の顔は引きつった。
「宇野!おまえ、なにを勝手に果林をここに連れて来たんだ!」
気が動転した宗介は果林を思わず呼び捨てにすると宇野の襟元を掴み上げていた。
「なにって企画室のメンバーなら来るべきじゃないのか!」
「ここに連れて来なかったのには理由があるんだよ!」
「理由ってなんだよ!」
宗介は宇野と果林の顔を交互に見てその手を離した。
「・・・・・・すまん」
「おまえなぁ、果林ちゃんの事になると見境なさすぎるぞ。他の社員に示しが付かないんじゃないのか。そんなに心配なら現場から外せよ」
「すまん、気を付ける」
「頼むよ」
宇野は宗介の肩を叩くと「さぁ、メシだ飯、休憩な」と他のメンバーを急き立てApaiserを後にした。残された果林と宗介は互いに気不味く青い芝生に目を落とした。
「名前を呼び捨てにして申し訳ありませんでした」
「いえ、大丈夫です気にしないで下さい」
果林は野菜コンテナを指差しながら「カリンの苗は初めて見ました」と呟やき、宗介も「初めて見ました」とうなずいた。
「カリンの花言葉ってなんでしたっけ」
果林はカリンの花言葉に話題を振ってしまい心底慌てた。
(あ〜、これってまずいよね、まずいよね!)
「果林さん、カリンの花言葉は<唯一の恋>です」
「あ、え〜とそうでしたね!鯉、鯉が池からビチビチ〜っと!」
戯けて見せたが時既に遅し。宗介の眼差しは熱を帯びていた。
(えええええと)
「唯一の恋です、果林さん」
「はい、そうですか、そうですね」
果林はこの場所から逃げ出したい衝動に駆られた。
「私が以前、chez tsujisakiのガーデンテラス席で言った言葉を覚えていますか?」
「ええーーとどの事でしょう?」
果林は思い当たることが多すぎて脇に汗をかいた。
「小町紅」
「この口紅の事ですか」
果林はスーツのポケットから金のコンパクトを取り出した。
「私にもつけて下さいとお願いしました」
「確かにお願いされました」
宗介は少し屈むとコンパクトを開きその紅を人差し指でなぞり果林の唇に色を落とした。すると果林の唇はほんのりと紅色に色付いた。
「果林さん、良いですか」
「よ、良いとはどのような意味でしょうか」
「私の唇に紅を付けても良いでしょうか」
「・・・・・え」
果林は唖然としたが宗介の熱量に絡め取られ気付かぬうちにコクリと小さく頷いていた。宗介の薄い唇が果林のぽってりとした唇に重なった。それは軽く触れる程度だったがしっとりとした温もりが名残惜しそうにゆっくりと離れた。
(宗介さんってまつ毛、長いんだ)
2人の視線が絡まり果林の頬は色付いた。
「ありがとうございます」
「あ、はい」
「では企画室に戻りましょうか」
「は、はい」
宗介の唇には淡い小町紅が残り果林の心臓は今にも破裂しそうに脈打った。
企画室スタッフの1人が重そうな野菜コンテナを持って店内に駆け込んだ。
「もう届いたの!早いなぁ、カリンと名の付く物には手が早いんだな」
「カリン?私の事ですか?」
「そうそう」
「なにが早いんですか」
宇野は屈み込んで果林の耳元で囁いた。
「宗介、あんな顔して女には奥手なんだぜ」
「女の人・・・奥手」
「そう。それがまぁ、果林ちゃんに関しては電光石火って感じ」
「・・・で、んこうせっ」
「超〜手が早ぇって事だよ」
「そ、そうなんですね」
果林にとってなにがどう電光石火なのか眉間にシワを寄せていると宇野がニヤついた顔で見下ろした。
「あいつ果林ちゃんにプレゼントとかしなかった?」
「はい、頂きました。お土産とか誕生日の花束とか入社のお祝いのシャツも」
「くそ〜、まじか俺のアドバイス全コンプリートかよ」
額に手を当てて天井を仰ぐ宇野を尻目に果林が野菜コンテナの中を覗き込むとオリーブの苗木が何本も入っていた。
「庭園にオリーブも植えるんですか」
「そうそう、向かいのビルからの目隠しにもなるからね」
果林はその中に初めて見る苗木を見付けた。
「これはなんですか」
「これがカリンの苗木だよ、かなり急がせたみたいだよ」
「これがカリン」
「ピンク色の花が咲くんだとさ」
「実もなるんですか」
「そりゃあ、わっさわっさ」
コンテナの前に座り込んだ果林は宇野を仰ぎ見た。
「わっさわっさ、ですか」
「果林ちゃん、俺とわっさわっさしちゃわない?」
「わっさわっさ」
「そう、わっさわっさ」
果林は人の気配を感じた。
「う、宇野さん、宇野さん後ろ!」
宇野の背後には眉間にシワを寄せ青筋を浮き立たせた宗介が仁王立ち、それまで調子の良かった宇野の顔は引きつった。
「宇野!おまえ、なにを勝手に果林をここに連れて来たんだ!」
気が動転した宗介は果林を思わず呼び捨てにすると宇野の襟元を掴み上げていた。
「なにって企画室のメンバーなら来るべきじゃないのか!」
「ここに連れて来なかったのには理由があるんだよ!」
「理由ってなんだよ!」
宗介は宇野と果林の顔を交互に見てその手を離した。
「・・・・・・すまん」
「おまえなぁ、果林ちゃんの事になると見境なさすぎるぞ。他の社員に示しが付かないんじゃないのか。そんなに心配なら現場から外せよ」
「すまん、気を付ける」
「頼むよ」
宇野は宗介の肩を叩くと「さぁ、メシだ飯、休憩な」と他のメンバーを急き立てApaiserを後にした。残された果林と宗介は互いに気不味く青い芝生に目を落とした。
「名前を呼び捨てにして申し訳ありませんでした」
「いえ、大丈夫です気にしないで下さい」
果林は野菜コンテナを指差しながら「カリンの苗は初めて見ました」と呟やき、宗介も「初めて見ました」とうなずいた。
「カリンの花言葉ってなんでしたっけ」
果林はカリンの花言葉に話題を振ってしまい心底慌てた。
(あ〜、これってまずいよね、まずいよね!)
「果林さん、カリンの花言葉は<唯一の恋>です」
「あ、え〜とそうでしたね!鯉、鯉が池からビチビチ〜っと!」
戯けて見せたが時既に遅し。宗介の眼差しは熱を帯びていた。
(えええええと)
「唯一の恋です、果林さん」
「はい、そうですか、そうですね」
果林はこの場所から逃げ出したい衝動に駆られた。
「私が以前、chez tsujisakiのガーデンテラス席で言った言葉を覚えていますか?」
「ええーーとどの事でしょう?」
果林は思い当たることが多すぎて脇に汗をかいた。
「小町紅」
「この口紅の事ですか」
果林はスーツのポケットから金のコンパクトを取り出した。
「私にもつけて下さいとお願いしました」
「確かにお願いされました」
宗介は少し屈むとコンパクトを開きその紅を人差し指でなぞり果林の唇に色を落とした。すると果林の唇はほんのりと紅色に色付いた。
「果林さん、良いですか」
「よ、良いとはどのような意味でしょうか」
「私の唇に紅を付けても良いでしょうか」
「・・・・・え」
果林は唖然としたが宗介の熱量に絡め取られ気付かぬうちにコクリと小さく頷いていた。宗介の薄い唇が果林のぽってりとした唇に重なった。それは軽く触れる程度だったがしっとりとした温もりが名残惜しそうにゆっくりと離れた。
(宗介さんってまつ毛、長いんだ)
2人の視線が絡まり果林の頬は色付いた。
「ありがとうございます」
「あ、はい」
「では企画室に戻りましょうか」
「は、はい」
宗介の唇には淡い小町紅が残り果林の心臓は今にも破裂しそうに脈打った。