溺愛のち婚約破棄は許しません  副社長は午前零時に愛を絡めとる

逆襲

 その2人の姿を見掛けた人物がいた。

「ねぇ、和寿」

「なんだよ」

 杉野恵美は木古内和寿が泣いて喜ぶ場面を目撃してしまった。

「私、すごいもの見ちゃった」

 連日、鼓膜を(ざわ)めかせ感情を逆撫でする電気ドリルやチェーンソーの騒音。目障りな工事中のApaiser(アペゼ)の店の中を何気なく覗いた杉野恵美は屋外庭園に寄り添う人影を見た。

(・・・・・まじ、嘘ぉぉ)

 その2人はゆっくりと口付けをし、振り向いた女性は羽柴果林だった。

「ここに怒鳴り込んだ背の高い男の事、覚えてる?」

「果林を連れ出したあいつだろう!忘れるかよ!」

「灯台下暗しよ」

「トーダイモトクロスがどうだっていうんだよ」

「果林を見つけたわ」

「どっ、どこで!」

 杉野恵美はフロアの真向かいに位置するApaiser(アペゼ)を指差した。

「まっ、まさか見間違いじゃないのか」

「間違える訳ないじゃない」

「本当か!」

「それがちょっとこ綺麗になってたわよ、あの男のコレみたいよ」

 小指を突き立てると前後に動かした。

「そんな訳あるかよ!」

「ほらぁ、いつも14:00になったら楽しそうにお喋りしてたじゃなぁい?あの頃から出来てたのかもしれないわよ」

「えっ!」

 木古内和寿はサロンエプロンを外すと床に叩き付けた。

「どこに住んでるんだ!」

「知らなぁい」

「くそ!」

「ここで見張っていればいつかは捕まえられるんじゃない?」

「くそ!」

 ただこれまで闇雲(やみくも)に探し回っていた事を考えれば果林の行方に目星が付いた。木古内和寿の口元は醜く歪んだ。
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