溺愛のち婚約破棄は許しません  副社長は午前零時に愛を絡めとる
シンデレラの夜

断罪

 宇野に支えられて医務室の扉を開けた果林は産業医の診察と手当を受けた。両手首と顔には複数の擦り傷、口角と口腔内は内出血を起こしていた。

「はい、これで冷やして」

「ありがとうございます、ごめんなさい」

「果林ちゃんが謝る事じゃないよ」

「でも、ガラスが割れてしまいました」

「あんなものは金を出せば何とでもなるさ、果林ちゃんの身体の方が心配だよ」

 果林は宇野に手を握られながら冷却剤で頬を冷やした。

「お、来たきた」

 廊下を小走りに革靴の音が近付いて来た。それは医務室の扉の前を素通りし慌てて戻って来た。

「果林!」

「宗介さん」

 慌てた宗介の顔色は青ざめ宇野を突き飛ばすとベッドの傍に両膝を突いて果林の手を握った。その大きな手の温もりに安堵した果林の目には涙が浮かんだ。

「大丈夫か!」

「はい、宇野さんが来て助けてくれました」

 宇野はうんうんと頷いた。それを見た宗介は「大丈夫なんだろうな!」と言わんばかりの表情で産業医を睨みつけた。

「あぁ、問題ないですよ軽い打撲です」

「本当か!」

「大丈夫です」

「大丈夫じゃなかったら解雇だぞ!」

「大丈夫です」

 果林の傷の状態がさほど悪くないことを確認した宗介は勢いよく床から立ち上がった。

「宇野、木古内和寿はどこに居る!」

「総務課の隣の会議室だよ警備員が付いている」

「分かった」

「おまえは仕事に戻ってくれ」

「了解、果林ちゃんの事は頼んだぞ。で、ガーデンテラスの割れたガラスは如何する」

「大至急発注だ」

「了解」

「果林さん、事情を伺いたいので会議室まで一緒に来て頂けますか?」

「はい」

 宗介は果林の頭を撫でると優しく微笑んだが、扉に向かった顔は厳しいものへと変化した。
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