溺愛のち婚約破棄は許しません 副社長は午前零時に愛を絡めとる
果林はTシャツに花柄のオーバーブラウスを羽織りジーンズを履いて見せた。宗介は「似合います!似合います!」と携帯電話を取り出して連写し始めた。
「やっやだやめて下さい!」
部屋を逃げ回るうちに宗介の部屋でつんのめり果林はキングサイズのベッドに倒れ込んだ。瞬間、シダーウッドと男性特有のにおいがふわりと舞い上がった。
(これが宗介さんの匂い)
急に恥ずかしくなった果林は「わー!広ーい!」と無邪気に戯けて見せ、勢いよくベッドの上を転がった。転がったまでは良かったがあと半回転足りず床へと転がり落ちそうになった。
「う、うひゃっ!」
「おーっと!危ない!」
宗介の差し出した手が危ういところで果林を抱き止めベッドの上へと押し戻した。間一髪、しかしながらこの距離感は心臓に悪かった。
(か、顔が近い、近い、近いけどかっこいいーーー!)
マットレスに両腕を突いた宗介、その顔を見上げる果林、2人の顔は赤らみ宗介はバネに弾かれる様に身体を反らした。
「す、すみません」
「私こそ子どもみたいに転がってしまいました」
「ご、ご飯食べに行きましょうか」
「あ、ええと、その14階の食堂という所ですか?」
「父が気になりますか?」
「はい、緊張します」
辻崎家は14階の通称食堂と呼ばれるフロアで食事をする。そこでは当然社長夫妻も食卓に着く訳で心の準備が出来ていない果林にとって食堂での食事はハードルが高かった。
「では、私が着替えますからソファに座って待っていて下さい」
「はい」
宗介はスーツのジャケットを脱ぎながら自室の扉を閉めた。果林は吸い寄せられる様に窓辺に向かいカーテンをめくった。幅の広い窓の外はきらめく街の夜景、眩い中心部からポツポツと明かりが灯る郊外まで見渡せるこの部屋に今日から暮らし、数日後にはApaiserのオーナー兼パティシエールとして働く。
(あ、新幹線)
宗介の部屋からは新幹線高架橋が見えた。光の列が時速260kmの速さで走る様に果林の人生も走り出した。気分屋のオーナーに怒鳴り散らされその母親の陰湿ないじめにあって来たこの2年間が嘘の様だ。
「お待たせしました」
上質なスーツを脱ぎ、ジーンズにTシャツ、ラフなシャツを羽織っただけの宗介は若々しく30代前半に見えた。
「かっ」
格好いいと言葉にしそうになると宗介は無邪気な笑顔で「今、格好良いって思ったでしょう」と果林の肩を抱いて玄関へと向かった。その行為があまりにもさり気無く不思議と嫌な心持ちにはならなかった。
(・・・・・あ、靴)
玄関先には真新しい靴が並んでいた。
「どれにしますか?」
果林はジーンズに合わせてデニム生地のバレエシューズを選んだ。
「良いですね、似合っています」
「ありがとうございます」
「さぁ、行きましょう!」
「は、はい!」
エレベーターを降りた宗介は果林の手を握り点滅する歩行者信号を駆け抜けた。白い横断歩道の目の前には宗介の逞しい背中があった。
「さぁ、急いで下さい!」
「は、はい!」
「お店は22:00までですよ!」
「ど、どこに行くんですか!」
「駅の中のラーメン店です!食べたくなりました!」
今回は車の後部座席に押し込まれる事はなかった。
(・・・・辻崎宗介さん)
毎日14:00に会っていた正体不明な社員は実は副社長でその副社長に手を引かれながら青信号の横断歩道を渡っている。
(え、なにこれ。嘘みたい、でも・・・い、痛い)
木古内和寿に殴られた左の頬に触れればやはり痛かった。
(現実なんだ、これ)
果林は幼い頃に読んだシンデレラの童話を思い出し笑みが溢れた。
「やっやだやめて下さい!」
部屋を逃げ回るうちに宗介の部屋でつんのめり果林はキングサイズのベッドに倒れ込んだ。瞬間、シダーウッドと男性特有のにおいがふわりと舞い上がった。
(これが宗介さんの匂い)
急に恥ずかしくなった果林は「わー!広ーい!」と無邪気に戯けて見せ、勢いよくベッドの上を転がった。転がったまでは良かったがあと半回転足りず床へと転がり落ちそうになった。
「う、うひゃっ!」
「おーっと!危ない!」
宗介の差し出した手が危ういところで果林を抱き止めベッドの上へと押し戻した。間一髪、しかしながらこの距離感は心臓に悪かった。
(か、顔が近い、近い、近いけどかっこいいーーー!)
マットレスに両腕を突いた宗介、その顔を見上げる果林、2人の顔は赤らみ宗介はバネに弾かれる様に身体を反らした。
「す、すみません」
「私こそ子どもみたいに転がってしまいました」
「ご、ご飯食べに行きましょうか」
「あ、ええと、その14階の食堂という所ですか?」
「父が気になりますか?」
「はい、緊張します」
辻崎家は14階の通称食堂と呼ばれるフロアで食事をする。そこでは当然社長夫妻も食卓に着く訳で心の準備が出来ていない果林にとって食堂での食事はハードルが高かった。
「では、私が着替えますからソファに座って待っていて下さい」
「はい」
宗介はスーツのジャケットを脱ぎながら自室の扉を閉めた。果林は吸い寄せられる様に窓辺に向かいカーテンをめくった。幅の広い窓の外はきらめく街の夜景、眩い中心部からポツポツと明かりが灯る郊外まで見渡せるこの部屋に今日から暮らし、数日後にはApaiserのオーナー兼パティシエールとして働く。
(あ、新幹線)
宗介の部屋からは新幹線高架橋が見えた。光の列が時速260kmの速さで走る様に果林の人生も走り出した。気分屋のオーナーに怒鳴り散らされその母親の陰湿ないじめにあって来たこの2年間が嘘の様だ。
「お待たせしました」
上質なスーツを脱ぎ、ジーンズにTシャツ、ラフなシャツを羽織っただけの宗介は若々しく30代前半に見えた。
「かっ」
格好いいと言葉にしそうになると宗介は無邪気な笑顔で「今、格好良いって思ったでしょう」と果林の肩を抱いて玄関へと向かった。その行為があまりにもさり気無く不思議と嫌な心持ちにはならなかった。
(・・・・・あ、靴)
玄関先には真新しい靴が並んでいた。
「どれにしますか?」
果林はジーンズに合わせてデニム生地のバレエシューズを選んだ。
「良いですね、似合っています」
「ありがとうございます」
「さぁ、行きましょう!」
「は、はい!」
エレベーターを降りた宗介は果林の手を握り点滅する歩行者信号を駆け抜けた。白い横断歩道の目の前には宗介の逞しい背中があった。
「さぁ、急いで下さい!」
「は、はい!」
「お店は22:00までですよ!」
「ど、どこに行くんですか!」
「駅の中のラーメン店です!食べたくなりました!」
今回は車の後部座席に押し込まれる事はなかった。
(・・・・辻崎宗介さん)
毎日14:00に会っていた正体不明な社員は実は副社長でその副社長に手を引かれながら青信号の横断歩道を渡っている。
(え、なにこれ。嘘みたい、でも・・・い、痛い)
木古内和寿に殴られた左の頬に触れればやはり痛かった。
(現実なんだ、これ)
果林は幼い頃に読んだシンデレラの童話を思い出し笑みが溢れた。