溺愛のち婚約破棄は許しません 副社長は午前零時に愛を絡めとる
10月4日
シャワーを終えた果林がバスタオルで髪を拭きながらリビングルームに向かうとなにやら妖しげな雰囲気が満ち満ちていた。明かりは落とされチェストの上にはキャンドルの灯りがゆらめきラベンダーの香りが漂っていた。
「宗介さんにアロマキャンドルの趣味があったとは知りませんでした」
「今日、秘書に買って来てもらいました」
(・・・・・・・秘書の意味)
「気持ちを鎮める効果があるらしい」
「それにしては」
落ち着かなくてはならないのは宗介の方だ。右手にはボールペン、左手には朱肉を持って正座している。当然のことリビングテーブルには例の婚姻届が広げられていた。
「果林、今夜が年貢の納め時だ」
「時代劇ですか」
「果林さん今日が何の日か気が付いていますか?」
「あ〜、宇野さんが抜けた分色々と忙しくて、2日?」
宗介は首を左右にぶんぶんと振ると眉間にシワを寄せた。
「果林さんはダーリンのお誕生日を忘れたのですか?」
「3日かな?」
「違いま〜す、ブッブーー4日で〜す」
「子どもですか」
「今日は10月4日ですおめでとうございます」
「おめでとうございます」
ボールペンと朱肉をテーブルに置いた宗介は胡座を掻くと手招きをして果林を窪みに座らせた。これは心地良いが何度やっても気恥ずかしい。宗介は婚姻届を両手で持つと果林の目の前に近付けた。
「ちょっ、そんなに近いと見えませんって!」
「あ、ごめんなさい」
「婚姻届が如何したんですか」
「おめでとう今日は10月4日!あと3時間で時効成立、あと3時間でApaiserオープンです!」
「警察ドラマですか」
「そして今日はダーリンの誕生日です」
「おめでとうございます」
「なに白けた顔をしているんですか」
「だって39歳のお祝いはしたくないって言っていましたよね?」
「39歳は嬉しくありませんが誕生日祝いはしたいです」
「あ、そうなんですか?」
宗介は果林を抱きしめ「左手を出して下さい」と手首を掴んだ。
(あ〜これは)
さすがの果林もこの状況で手相を見るとは思えず思いっきり手を開いてみた。案の定《それ》は薬指にするすると嵌った。
「指輪のサイズはいつ測ったんですか」
「企画室にあったホワイトボードマーカーが似たようなサイズだったから店に持って行きました」
如何してこういう事が思い付くのだろうかと思わず失笑してしまった。
「8号くらいだというので選びましたが丁度良いですね」
「浮腫んだら分かりませんけれど、ピッタリです」
「感動して下さい、ティファニーですよ」
「わあー」
「1.5ctですよ」
「わあー」
それは繊細な4本爪セッティング、中央のダイヤモンドに向けて細くなるテーパード型のリングが美しく輝いていた。背中を向けうつむき加減の果林の目尻には熱いものが浮かび、それは目頭を伝って宗介の膝に落ちた。
「なんですか、泣いているんですか?」
「・・・・・・」
「まだ言っていませんでしたね」
宗介は果林の首筋に顔を埋めるとくぐもった声で熱く囁いた。
「羽柴果林さん、私と結婚して下さい」
「・・・・っ」
「果林さん、大切にします」
果林は振り向くと涙を溢した。
「私で良いんですか」
「はい、果林さんが良いんです」
「短大卒業ですよただのパティシエですよ」
「学歴なんて関係ありません」
「顔だってチンチラって言われますよ、ネズミですよ」
「小さい動物は可愛いです」
「胸だってこんなに小さいし!」
「私が大きくしてあげます」
「大きくなるの?」
「なるんじゃないですか?」
そこで2人は小さく笑った。
「もう一度言って下さい」
「結婚しましょう」
「はい」
「結婚して下さい」
「はい」
宗介は力一杯、華奢な果林の身体を抱き締めた。
どれくらい時間が経っただろう。
「さて、と」
「はい?」
「さぁ、ボールペンはどれを選びますか?」
「あぁ、婚姻届ですね」
色は黒、異なるメーカーの5本のボールペンを握っていた。
(やる事がいちいち細かいというか、こまめだな)
果林は水性ゲルインクボールペンを選んでそれを手に握った。その姿を見た宗介は最上級の笑顔で喜んだ。果林はシャープペンシルで書き込んだ下書きをボールペンで丁寧になぞり2人はインクが乾くのを待った。
「まだかな」
「まだじゃないですか?」
宗介はティッシュペーパーを手に持つと余分なインクを吸い取りフゥフゥと息を吹き掛けた。それでも滲んでは大変だと消しゴムを掛け印鑑を捺すのは明日に持ち越すことになった。
(さすが副社長、慎重だな)
そこで宗介は果林を凝視した。
「どうしましたか?」
ゆっくりと顔が近付き唇が重なった。
「あと1時間半で私の誕生日が終わってしまいます」
「はい?」
「誕生日を祝って下さい」
「歌でも唄えば良いんでしょうか?」
宗介はもう一度唇を重ねた。
「私の身体の下で」
「身体の下で?」
「啼いてみませんか?」
「えっ?」
宗介は自室の扉を指差した。
シャワーを終えた果林がバスタオルで髪を拭きながらリビングルームに向かうとなにやら妖しげな雰囲気が満ち満ちていた。明かりは落とされチェストの上にはキャンドルの灯りがゆらめきラベンダーの香りが漂っていた。
「宗介さんにアロマキャンドルの趣味があったとは知りませんでした」
「今日、秘書に買って来てもらいました」
(・・・・・・・秘書の意味)
「気持ちを鎮める効果があるらしい」
「それにしては」
落ち着かなくてはならないのは宗介の方だ。右手にはボールペン、左手には朱肉を持って正座している。当然のことリビングテーブルには例の婚姻届が広げられていた。
「果林、今夜が年貢の納め時だ」
「時代劇ですか」
「果林さん今日が何の日か気が付いていますか?」
「あ〜、宇野さんが抜けた分色々と忙しくて、2日?」
宗介は首を左右にぶんぶんと振ると眉間にシワを寄せた。
「果林さんはダーリンのお誕生日を忘れたのですか?」
「3日かな?」
「違いま〜す、ブッブーー4日で〜す」
「子どもですか」
「今日は10月4日ですおめでとうございます」
「おめでとうございます」
ボールペンと朱肉をテーブルに置いた宗介は胡座を掻くと手招きをして果林を窪みに座らせた。これは心地良いが何度やっても気恥ずかしい。宗介は婚姻届を両手で持つと果林の目の前に近付けた。
「ちょっ、そんなに近いと見えませんって!」
「あ、ごめんなさい」
「婚姻届が如何したんですか」
「おめでとう今日は10月4日!あと3時間で時効成立、あと3時間でApaiserオープンです!」
「警察ドラマですか」
「そして今日はダーリンの誕生日です」
「おめでとうございます」
「なに白けた顔をしているんですか」
「だって39歳のお祝いはしたくないって言っていましたよね?」
「39歳は嬉しくありませんが誕生日祝いはしたいです」
「あ、そうなんですか?」
宗介は果林を抱きしめ「左手を出して下さい」と手首を掴んだ。
(あ〜これは)
さすがの果林もこの状況で手相を見るとは思えず思いっきり手を開いてみた。案の定《それ》は薬指にするすると嵌った。
「指輪のサイズはいつ測ったんですか」
「企画室にあったホワイトボードマーカーが似たようなサイズだったから店に持って行きました」
如何してこういう事が思い付くのだろうかと思わず失笑してしまった。
「8号くらいだというので選びましたが丁度良いですね」
「浮腫んだら分かりませんけれど、ピッタリです」
「感動して下さい、ティファニーですよ」
「わあー」
「1.5ctですよ」
「わあー」
それは繊細な4本爪セッティング、中央のダイヤモンドに向けて細くなるテーパード型のリングが美しく輝いていた。背中を向けうつむき加減の果林の目尻には熱いものが浮かび、それは目頭を伝って宗介の膝に落ちた。
「なんですか、泣いているんですか?」
「・・・・・・」
「まだ言っていませんでしたね」
宗介は果林の首筋に顔を埋めるとくぐもった声で熱く囁いた。
「羽柴果林さん、私と結婚して下さい」
「・・・・っ」
「果林さん、大切にします」
果林は振り向くと涙を溢した。
「私で良いんですか」
「はい、果林さんが良いんです」
「短大卒業ですよただのパティシエですよ」
「学歴なんて関係ありません」
「顔だってチンチラって言われますよ、ネズミですよ」
「小さい動物は可愛いです」
「胸だってこんなに小さいし!」
「私が大きくしてあげます」
「大きくなるの?」
「なるんじゃないですか?」
そこで2人は小さく笑った。
「もう一度言って下さい」
「結婚しましょう」
「はい」
「結婚して下さい」
「はい」
宗介は力一杯、華奢な果林の身体を抱き締めた。
どれくらい時間が経っただろう。
「さて、と」
「はい?」
「さぁ、ボールペンはどれを選びますか?」
「あぁ、婚姻届ですね」
色は黒、異なるメーカーの5本のボールペンを握っていた。
(やる事がいちいち細かいというか、こまめだな)
果林は水性ゲルインクボールペンを選んでそれを手に握った。その姿を見た宗介は最上級の笑顔で喜んだ。果林はシャープペンシルで書き込んだ下書きをボールペンで丁寧になぞり2人はインクが乾くのを待った。
「まだかな」
「まだじゃないですか?」
宗介はティッシュペーパーを手に持つと余分なインクを吸い取りフゥフゥと息を吹き掛けた。それでも滲んでは大変だと消しゴムを掛け印鑑を捺すのは明日に持ち越すことになった。
(さすが副社長、慎重だな)
そこで宗介は果林を凝視した。
「どうしましたか?」
ゆっくりと顔が近付き唇が重なった。
「あと1時間半で私の誕生日が終わってしまいます」
「はい?」
「誕生日を祝って下さい」
「歌でも唄えば良いんでしょうか?」
宗介はもう一度唇を重ねた。
「私の身体の下で」
「身体の下で?」
「啼いてみませんか?」
「えっ?」
宗介は自室の扉を指差した。