溺愛のち婚約破棄は許しません  副社長は午前零時に愛を絡めとる
 思わず果林は慄いた。

「なっ、啼く」

「私、毎晩ベッドの中で我慢したんですよ」

「そ、そうですよね」

「褒めてもらいたいですね」

 宗介はカーペットに膝をつきじりじりと手を伸ばし果林をソファーの窪みへと追い込んだ。その目は熱を帯び臨戦態勢である事は明らかだった。それにしても心の準備が出来ていない、下着も宗介好みのシルクのパンティでは無かった。

(初めての夜が綿100%は失礼に当たる、よね)

「果林さん、さぁ、啼きましょう!」

「あ、あの!」

「あのもそのも、もう無しですよ。誕生日のお祝いですから派手にやりましょう」

「はっ・・・・・派手に!」

 尚の事、綿100%の下着は不相応だ。

「そ、宗介さん!」

「なんでしょうか」

「とっ、トイレと!もう一度洗って来て良いですか!」

 宗介の眉間にはシワが寄ったが腕組みをして暫し考えた。

(なにか準備をする事があるのか)

「分かりました、それでは私も洗い直しましょう」

「あ〜らいなお、す」

「はい、あんな事やこんな事があっては困りますので」

(あんな事ってどんな事!?)

 そこで10分後に宗介のベッドで集合ということになった。

(集合って遠足に出掛ける訳じゃないんですけど)

 情事の雰囲気半減どころか皆無の初夜を迎える果林はベッドの上にありったけのパンティを並べ仁王立ちして見下ろした。

(これはもう見せたし、これも見せた・・・・・あっ、これ!)

 いつぞやのランジェリーショップでレースが美しいと宗介が大絶賛していた濃紺に薄紅と(だいだい)の雛菊がフロントにあしらわれた大人の女性のキャミソールとパンティーのセットアップ。

「よし、これだ!ドーンと来い!」

 方向性が違う様な気もするが、隅々まで磨き上げた果林はそれを身に付けて宗介の部屋へと向かった。鼻息も荒く意気込んで部屋の扉を開けたがそこに宗介の姿は無かった。あれやこれやと言っていた割に宗介も色々と準備することがあったらしい。

(どうしたら良いのだ)

 ぼんやり立っているのも間抜けに思い果林はいつもの様にベッドに潜り込んだ。仰向けになると天窓に三日月が見えた。

(確かに)

 婚姻届の下書きをしたその夜から2人は宗介のベッドで眠るようになった。しかしながら宗介は抱き締めるだけでそれ以上のことはしなかった。

(確かに抱き締めるだけでなにもしなかったな)

 心から大切にされていると思った。そこで一瞬気が緩んだ果林はあごが外れそうな程の大欠伸(おおあくび)をした。

「おや、大欠伸(おおあくび)とは余裕ですね」

「仕事で疲れていて」

「そうですか」

「ごめんなさい、失礼しました」

「もっと疲れさせてしまったらごめんなさい」

「あっあの!」

 ぎしっ

 宗介がマットレスに膝を突き、ベッドが軋む音に果林の身体は強張った。

(き、緊張しない!リラックス、リラーーーックス)

 果林は心の中でそう唱えながら胸の前で握り拳を作り神に祈った。なにせセックスなど未知の領域、余裕など1mmも無かった。

「果林さん、力を抜いて、緊張しなくても大丈夫です」

「むっ、無理です、初めてなんです!」

「知っていますよ」

 そこで宗介がタオルケットに潜り込んだ。

「・・・・・・えっ」

 もぞもぞと動き回る宗介は足首を掴むと足の指を一本、また一本と口に含み始めた。爪先から駆け上がる微妙な感覚に果林は飛び上がった。右足の指を堪能し尽くした唇は左の小指を()んだ。

「やっ」

 果林は思わず仰け反り嬌声(きょうせい)を漏らした。

「これは邪魔ですね」

 宗介はタオルケットを勢いよく剥ぐと両足首を掴んで持ち上げ果林の目を凝視しつつ足指を堪能し始めた。軽く噛み、口に含み舐めて吸い上げる。その呼吸する様な愛撫に果林は顔を背けた。

「果林さんこっちを見て」

「嫌です、恥ずかしい、無理です」

「見て」

 深く静かでいて唸るような声に果林は従うしかなかった。

(こんなの初めて)

 果林は両足を抱え上げられしゃぶり尽くされる自身の姿を恥じらいつつ身悶えた。
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