溺愛のち婚約破棄は許しません  副社長は午前零時に愛を絡めとる
 辻崎株式会社新社屋ビルの1階はブティックや小物雑貨、飲食店などのテナントが入っている。果林はchez tsujisaki(しぇ つじさき)の求人ポスターを貼るためにそのフロアに立ち入った。ふと見遣れば鏡に映る惨めな自分。後れ毛が出た襟足と黄ばんだカッターシャツ、ヨレヨレのサロンエプロン、勤務を終え疲労困憊の姿に恥ずかしさを覚えた。

(・・・みんな楽しそう)

 25歳、同年代と思われる会社帰りの女性たちが新作のワンピースを手に全身鏡の前で「花柄が良いかな、ストライプも捨て難いよね」どちらにしようかと悩んでいた。

「良いなぁ」

 果林の給与では新しい服を買い足す事も出来ない。アパートの家賃に光熱費、食費は自炊でなんとか抑える事が出来ても頭の痛い事だらけだ。

「おつかれさまです」

 フロアの一番奥に場所に総合案内所があった。

「お疲れさまです」

「あら羽柴さん、まだお仕事だったの?」

「はい、残業だったんです」

「また?毎日じゃない。オーナーは残業しないの?」

「どうなんですかね」

 果林が苦笑いをしていると背後の社員専用のエレベーターの扉が開いた。

ぽーーーん


「・・・・あ」

そこで見覚えの有る赤茶の革靴、見覚えのある顔の男性が足を踏み出した。
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