溺愛のち婚約破棄は許しません 副社長は午前零時に愛を絡めとる
(・・・・・・あれ?そう言えば、時給って)
果林は昨夜の宗介の険しい顔を思い出した。宗介はchez tsujisakiの時給が970円だと知って宜しくないと呟いていた。その翌日の時給賃上げ。
(まさか)
果林は宗介がたまたま辻崎と同姓なのだと勝手に解釈していた。
(まさか)
突然の時給賃上げで辻崎宗介が辻崎株式会社の関係者なのではないか、そう考えた果林は何気なく背後を振り返った。
(うわっ)
するとそこで欅の席に座る宗介と視線が合い「お願いします」とふたたび手招きをされた。
(み、見られていた、見ていた!まさかずっと見てた!?)
辻崎株式会社が秘密裏に社員の素行調査をしているのではないかと勘繰った果林の動作は一気に機械じみてぎこちなくなった。
「どうかしましたか」
「ナ、ナンデモゴザイマセン」
「表情が堅いですよ、なにかありましたか」
(はい、それは多分あなたが調査員だからです!)
「いえ、とんでもございますでございません」
「言葉遣いもなんだかぎこちないですね」
(ああーーーー茶茶壷茶壷にゃ蓋がない状態!茶壷ーーー!)
宗介は顔を赤らめ視線が落ち着かない果林を見上げて口角を上げた。
「このケーキは果林さんが焼いた物ですか」
「はい、昨夜仕込んで先程焼き上げました」
「スポンジに染みたリキュールのしっとり感、にも関わらず上品です。果実の配合も絶妙ですね」
「ありがとうございます」
「見た目は素朴ですが素材の良さが引き立っている」
「ありがとうございます」
宗介はケーキをフォークで口に運ぶと優しい微笑みを浮かべた。
「確かに温かい味がします」
「はぁ、焼き上げたばかりですから」
「その様な意味ではありませんよ、日向の様な温かな味がします。人事課部長が話していた通りですね」
(・・・・・・・あぁ、人事課部長さんはズッパイングレーセにオレンジペコ)
狸のような姿が頭に浮かんだ。それにしても総務課部長や人事課部長と交流があるこの人物は何者なのかと俄然興味が湧いた。
「おい!おい果林!聞こえないのか!」
そこで現実に引き戻された。1人の客に何分時間を掛けているんだと和寿の怒号が菓子工房の中から容赦なく果林に浴びせられた。
(・・・・・はぁ、お子様だわ)
「またオーナーは賑やかですね」
「・・・はい」
「お引き留めして申し訳ありませんでした」
「ありがとうございます、失礼致します」
果林は宗介に会釈しながら脳内で木古内和寿を2回抹殺した。満席でも無い、菓子類は既に焼き上がっている、木古内和寿が接客してもなんら問題は無い。しかしながらパティシエたるもの工房から出てはならないと訳の分からない理由をつけ、バックヤードで携帯ゲームに課金をしている。
(・・・・・・素行調査で厳重注意されるがいいわ!)
果林はいい加減な雇い主を睨み付けた。
果林は昨夜の宗介の険しい顔を思い出した。宗介はchez tsujisakiの時給が970円だと知って宜しくないと呟いていた。その翌日の時給賃上げ。
(まさか)
果林は宗介がたまたま辻崎と同姓なのだと勝手に解釈していた。
(まさか)
突然の時給賃上げで辻崎宗介が辻崎株式会社の関係者なのではないか、そう考えた果林は何気なく背後を振り返った。
(うわっ)
するとそこで欅の席に座る宗介と視線が合い「お願いします」とふたたび手招きをされた。
(み、見られていた、見ていた!まさかずっと見てた!?)
辻崎株式会社が秘密裏に社員の素行調査をしているのではないかと勘繰った果林の動作は一気に機械じみてぎこちなくなった。
「どうかしましたか」
「ナ、ナンデモゴザイマセン」
「表情が堅いですよ、なにかありましたか」
(はい、それは多分あなたが調査員だからです!)
「いえ、とんでもございますでございません」
「言葉遣いもなんだかぎこちないですね」
(ああーーーー茶茶壷茶壷にゃ蓋がない状態!茶壷ーーー!)
宗介は顔を赤らめ視線が落ち着かない果林を見上げて口角を上げた。
「このケーキは果林さんが焼いた物ですか」
「はい、昨夜仕込んで先程焼き上げました」
「スポンジに染みたリキュールのしっとり感、にも関わらず上品です。果実の配合も絶妙ですね」
「ありがとうございます」
「見た目は素朴ですが素材の良さが引き立っている」
「ありがとうございます」
宗介はケーキをフォークで口に運ぶと優しい微笑みを浮かべた。
「確かに温かい味がします」
「はぁ、焼き上げたばかりですから」
「その様な意味ではありませんよ、日向の様な温かな味がします。人事課部長が話していた通りですね」
(・・・・・・・あぁ、人事課部長さんはズッパイングレーセにオレンジペコ)
狸のような姿が頭に浮かんだ。それにしても総務課部長や人事課部長と交流があるこの人物は何者なのかと俄然興味が湧いた。
「おい!おい果林!聞こえないのか!」
そこで現実に引き戻された。1人の客に何分時間を掛けているんだと和寿の怒号が菓子工房の中から容赦なく果林に浴びせられた。
(・・・・・はぁ、お子様だわ)
「またオーナーは賑やかですね」
「・・・はい」
「お引き留めして申し訳ありませんでした」
「ありがとうございます、失礼致します」
果林は宗介に会釈しながら脳内で木古内和寿を2回抹殺した。満席でも無い、菓子類は既に焼き上がっている、木古内和寿が接客してもなんら問題は無い。しかしながらパティシエたるもの工房から出てはならないと訳の分からない理由をつけ、バックヤードで携帯ゲームに課金をしている。
(・・・・・・素行調査で厳重注意されるがいいわ!)
果林はいい加減な雇い主を睨み付けた。