能ある女は本心を隠す
「い、いえ。私は全然構いませんわ…陽谷様がまた来てくれる日を待っております」

私は必死に笑ってそう言った。上手く取り繕えていただろうか?本心を。

「そこでだ、朕が出発する際の見送り役をやってくれないか?愛琳」

見送り役、麗花から聞いた話によるとそれは代々寵妃がやってきたものらしい。身籠る前は範賢妃が行っていたそうだが、懐妊された後は序列一位の許貴妃様が行っているらしい。寵妃の代わりに序列一位の妃が見送り役をするのは彼女も頷けただろう。しかし、新参の徳妃がこの役を執り行うと知ったら何を思うだろうかそれだけで心が躍る。

「はい、勿論です。陽谷様が望むならなんなりと」

私が顔色一つ変えず微笑むと、陽谷様は些か不服そうな顔をした。

「お前は…寂しくないのか?」

陽谷様は私の髪を一房掬い、口付けた。寂しい寂しくないで止められることではないとそんなこと今更すぎる。別に私は陽谷様のことが好きで入内したわけじゃない。所謂お見合い結婚のようなもの。そこに、恋愛の感情があるかなんて野暮な質問だろう。

「私だって…それは寂しいですよ、、でも私は陽谷様がまた桔梗宮に来て下さるのを待つことしかできないので。それが妾というものでしょう?」

私は自然に目を潤ませ、少し体を震えさせた。まるで本当は行かないでほしいけれど止めては駄目だと自分に言い聞かせるように。ここ最近で気づいてしまった、陽谷様の好み。普段は明るくて素直で媚を売り誘惑する女達とは真反対の性格。でも偶に見せるか弱く庇護欲そそるそんな女。すると、陽谷様は私の体を自身の方へ向け向かい合うような形にした。そして、顔が近づいてきたと思うと、私の唇に口付けた。

「泣くな、愛琳……そうか、、お前も寂しいのか、、なら今日は堪能してもいいか?」

陽谷様は私の瞳に溜まった涙を拭き取り、そっと口付けた。私が彼の腕の中で頷いたのは言うまでもない。
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