転生陰陽師の奥様の新婚生活には物の怪たちがやってくる!
第1話 雪が降り積もる時
この度、結婚して一週間。雪が本格的に降ってきて、一人で雪かきをしているこの現実はなんだろう?
チラチラチラチラと白い雪がどんよりとしたグレー色の雲から落ちてくる。
「もし?」
旦那様の秋生さんは、今頃どこにいるのかなぁ?
「もしもし?」
海の上かなぁ?雪を見てると寂しさが増してくる。小さな家だけど、一人で管理するのはけっこう大変だし、秋生さんがいないと広々感じてしまう。
「そこの方?」
早く帰って来ないかな?新婚なのに一週間も放置ってあんまりだと思うの。
「雪かきをしている人?」
私はハッとし、ようやく声に気付いた。
「ご、ごめんなさい!ボーッとしちゃいました!回覧板ですか!?近所の方!?ゴミ出しのルールは守ってますっ!町内会のお話ですか!?」
立っていたのは白い服を着た、やけに薄着の女の人だった。長い黒髪に青い顔をしている。寒そう……雪の中、待たせすぎたのね。悪いことしちゃった。
「違います。あなたがあまりにも悲しそうにしていたので、声をかけてしまいました」
「私、悲しそうでした?わかりました?新婚なのに、一週間も放置ってどう思います?」
「愛する人がどこかへ?」
「そうなんです!私の所へなかなか帰ってこなくて……」
それは寂しいですねと女の人すごく悲しい顔をしてくれる。泣きそうなほどだった。
こんなに共感してくれて、私はなんだか嬉しくなってしまった。引っ越してきて、間もないから、まだ友達もいないし。
「あの、寒い中待たせてしまいましたから、中に入りませんか?」
「いいのですか?招いてくれるのですか?」
「もちろん!どうぞ!」
扉を開くと顔がパッ!と明るくなった。しかし寒さのために青白い。ご近所の方を待たせるなんて悪いことしちゃった。ボーッとするのは悪い癖よね。
「中、暖房とかつけてないのですか?」
「今、つけますね。秋生さん……うちの旦那さんが一生懸命稼いできてくれてるお金なので、大切に使ってるんです」
「なるほど、健気な奥様ですね」
女の人は感心したように頷く。私はそんなことありません!と奥様という言葉に気恥ずかしくなりつつソファに座るように勧める。
謙虚な人なのか、ソファの端に腰掛けた。
「もっとストーブの傍へどうぞ。まだ部屋の中が暖まらなくて寒いでしょう?」
「いえ、ここで、けっこうです」
ご近所付き合いをここで失敗するわけにはいかない。秋生さんにがっかりされたり迷惑かけたりされたくない。
私はおもてなしを頑張りたいとはりきる。
「雪かきを終えたら食べようと思って、ぜんざいを仕込んで置いたんです。ちょっと待っててくださいね!」
おモチをトースターでこんがり焼いていく。おモチを焼く時間に女の人は私に話しかけてくる。
「男の人って浮気とか心配じゃありませんか?」
「そうですねぇ。秋生さんは優しいし、カッコいいし、心配かもしれません」
外は私の不安を掻き立てるように雪が吹雪いてきた。外の景色が見えない。また雪かきをしなきゃだめかもしれない。
「もしかして今も別の女の人と会ってるかも」
そう言われるとそんな気がしてくる。じわじわと嫌な気持ちになってくる。
「人を想うって苦しいでしょう?」
確かにそうだわ。ゴオッと時折、強い風の音がする。外がやけに暗い。
「人をやめたくなりませんか?」
人をやめる?どういう意味?ストーブをつけてるのに室内はずっと寒々としている。
秋生さん……秋生さん……となんだか呼びたい。今すぐこの不安を消して欲しくなる。
チン!とトースターの音がして、我に返る。まるで夢から覚めた気がした。この女の人と話していると何だか自分の心が自分のものでなくなる。
「ぜんざいを持ってきますね」
私はホカホカの小豆の汁の中に焦げ目のついた香ばしくて熱々のおモチをいれた。お箸とぜんざいを差し出す。女の人が一瞬怯んだ。
「ありがとうございます……でも……」
「体、温まりますよ!どうぞ!召し上がってください」
ニコッと私が笑いかけると、困った顔をしながら、お椀を手にして、一口すすった。
私も自分のぜんざいを持ってこよう。そう思って、おモチをトースターから出した。残り2個ある。
「おかわりいりませんかー?あれっ?」
女の人がいない!?ソファが水だらけに………ホカホカのぜんざいだけがテーブルに置いてあった。
私はようやく気付いた。また人ならぬものを惹き寄せてしまった。
「結界、貼ってあったのに……ああっ!自分から『どうぞ』って言っちゃったんだった!招いてしまったわ。秋生さんに怒られるー!」
ご近所付き合いの失敗より、こっちのほうが怒られそう。慌ててタオルを持ってきて、ソファを拭く。
いなくて良かった〜。帰って来る前に証拠隠滅よ!
外の吹雪はもう晴れていた。キラキラと雪が反射し、眩しかった。
人を想う苦しさはあるけれど、人を想う嬉しさもあることを私は知っている。
チラチラチラチラと白い雪がどんよりとしたグレー色の雲から落ちてくる。
「もし?」
旦那様の秋生さんは、今頃どこにいるのかなぁ?
「もしもし?」
海の上かなぁ?雪を見てると寂しさが増してくる。小さな家だけど、一人で管理するのはけっこう大変だし、秋生さんがいないと広々感じてしまう。
「そこの方?」
早く帰って来ないかな?新婚なのに一週間も放置ってあんまりだと思うの。
「雪かきをしている人?」
私はハッとし、ようやく声に気付いた。
「ご、ごめんなさい!ボーッとしちゃいました!回覧板ですか!?近所の方!?ゴミ出しのルールは守ってますっ!町内会のお話ですか!?」
立っていたのは白い服を着た、やけに薄着の女の人だった。長い黒髪に青い顔をしている。寒そう……雪の中、待たせすぎたのね。悪いことしちゃった。
「違います。あなたがあまりにも悲しそうにしていたので、声をかけてしまいました」
「私、悲しそうでした?わかりました?新婚なのに、一週間も放置ってどう思います?」
「愛する人がどこかへ?」
「そうなんです!私の所へなかなか帰ってこなくて……」
それは寂しいですねと女の人すごく悲しい顔をしてくれる。泣きそうなほどだった。
こんなに共感してくれて、私はなんだか嬉しくなってしまった。引っ越してきて、間もないから、まだ友達もいないし。
「あの、寒い中待たせてしまいましたから、中に入りませんか?」
「いいのですか?招いてくれるのですか?」
「もちろん!どうぞ!」
扉を開くと顔がパッ!と明るくなった。しかし寒さのために青白い。ご近所の方を待たせるなんて悪いことしちゃった。ボーッとするのは悪い癖よね。
「中、暖房とかつけてないのですか?」
「今、つけますね。秋生さん……うちの旦那さんが一生懸命稼いできてくれてるお金なので、大切に使ってるんです」
「なるほど、健気な奥様ですね」
女の人は感心したように頷く。私はそんなことありません!と奥様という言葉に気恥ずかしくなりつつソファに座るように勧める。
謙虚な人なのか、ソファの端に腰掛けた。
「もっとストーブの傍へどうぞ。まだ部屋の中が暖まらなくて寒いでしょう?」
「いえ、ここで、けっこうです」
ご近所付き合いをここで失敗するわけにはいかない。秋生さんにがっかりされたり迷惑かけたりされたくない。
私はおもてなしを頑張りたいとはりきる。
「雪かきを終えたら食べようと思って、ぜんざいを仕込んで置いたんです。ちょっと待っててくださいね!」
おモチをトースターでこんがり焼いていく。おモチを焼く時間に女の人は私に話しかけてくる。
「男の人って浮気とか心配じゃありませんか?」
「そうですねぇ。秋生さんは優しいし、カッコいいし、心配かもしれません」
外は私の不安を掻き立てるように雪が吹雪いてきた。外の景色が見えない。また雪かきをしなきゃだめかもしれない。
「もしかして今も別の女の人と会ってるかも」
そう言われるとそんな気がしてくる。じわじわと嫌な気持ちになってくる。
「人を想うって苦しいでしょう?」
確かにそうだわ。ゴオッと時折、強い風の音がする。外がやけに暗い。
「人をやめたくなりませんか?」
人をやめる?どういう意味?ストーブをつけてるのに室内はずっと寒々としている。
秋生さん……秋生さん……となんだか呼びたい。今すぐこの不安を消して欲しくなる。
チン!とトースターの音がして、我に返る。まるで夢から覚めた気がした。この女の人と話していると何だか自分の心が自分のものでなくなる。
「ぜんざいを持ってきますね」
私はホカホカの小豆の汁の中に焦げ目のついた香ばしくて熱々のおモチをいれた。お箸とぜんざいを差し出す。女の人が一瞬怯んだ。
「ありがとうございます……でも……」
「体、温まりますよ!どうぞ!召し上がってください」
ニコッと私が笑いかけると、困った顔をしながら、お椀を手にして、一口すすった。
私も自分のぜんざいを持ってこよう。そう思って、おモチをトースターから出した。残り2個ある。
「おかわりいりませんかー?あれっ?」
女の人がいない!?ソファが水だらけに………ホカホカのぜんざいだけがテーブルに置いてあった。
私はようやく気付いた。また人ならぬものを惹き寄せてしまった。
「結界、貼ってあったのに……ああっ!自分から『どうぞ』って言っちゃったんだった!招いてしまったわ。秋生さんに怒られるー!」
ご近所付き合いの失敗より、こっちのほうが怒られそう。慌ててタオルを持ってきて、ソファを拭く。
いなくて良かった〜。帰って来る前に証拠隠滅よ!
外の吹雪はもう晴れていた。キラキラと雪が反射し、眩しかった。
人を想う苦しさはあるけれど、人を想う嬉しさもあることを私は知っている。