君の王子になりたくて
「じゃあ、私…戻るねっ」
「あぁ、またな」
涙が落ちる前に精一杯の笑顔を見せて
階段を降りようと一歩踏み出した瞬間
「い、伊月くん…っ?!」
「予鈴がなったら友達に戻る
だから、今だけ俺の腕の中にいて」
後ろから抱きしめられて伊月くんの顔は見えない
きゅ、と包まれた体から伊月くんの体温が伝わってきて切なさで胸がいっぱいになる
…どうして、
どうして私は響くんが好きなんだろう
今も響くんの顔が脳裏に浮かんで
考えるだけで他の誰とも違う気持ちを私に抱かせる彼
子供の頃から一緒にいた、ずっとそばに居すぎて好きだってことに気づかなかったくらい
でも、もう気づいてしまった
どうしようもないくらい響くんが好き
響くんじゃなきゃダメな私は伊月くんの気持ちに答えられない
そんなやり場のない感情を唇を噛んで押し殺す
だけど、少しでも動いたら直ぐに離れてしまいそうな程弱い力で包んでくる腕を私は振りほどけなかった