君の王子になりたくて
…ごめんなさい
せっかく好きになってくれたのに
この尊い想いに応えることが出来なくて
「悪い…先に戻る」
ぽた、と涙が頬を伝って伊月くんの腕に落ちると
予鈴がなる前に私を包んでいた体温が無くなる
またな、と階段を降りていく後ろ姿に私は堪らず声をかけた
「伊月くん…っ!
沢山助けてくれてありがとう!励ましてくれて…
私を、好きになってくれてありがとう!!」
嘘じゃない、これは紛れもなく私の気持ち
伊月くんの黒目がちな瞳を真っ直ぐ見つめて言うと彼は驚いたような顔をした後、ふっと柔らかく笑った
「…どーいたしまして
早川に愛想尽かしたら言えよ、いつでも俺が奪いに行ってやる」
普段通りの意地悪な笑みを浮かべて伊月くんはまた階段を降りていった
伊月くん、ありがとう
恋人として傍にはいられないけど、伊月くんがくれた優しさや暖かい気持ちはずっと私の中に残って消えないよ
伊月くんの背中を見送って私は涙を拭った