君の王子になりたくて

大切にしたいのに


♢♢♢
said︎︎︎︎▷響



「大事な女、泣かせてんじゃねぇよ」



同じクラスの伊月 文哉(いづき ふみや)は冷たい視線を向けた後、俺の幼なじみを連れて理科室から出ていった



綴ちゃんは俺の前で泣いたことがない
母さんが亡くなった時でさえ、俺のことを励まして暗い顔なんて見せなかったのに


俺のせいで綴ちゃんが泣いた
悲しい思いをさせた

そんな事実が心に突き刺さって身動きが取れない



「ね、ねぇ早川くん…ほんとに私じゃないよ?」



放心状態の俺にするり、と腕を回してくる山田さんは一体俺のどこがいいんだろうか


学校での取り繕った姿しか知らないのに、上辺だけの俺しか知らないのに、何がそんなにいいんだろう


くそ、あんなこと思ってないのに口出すなんて


『伊月と恋したら』なんて思ってもいないのに

なんであんなこと言ったんだよ


< 97 / 140 >

この作品をシェア

pagetop