これを運命というのなら
お客様、大切なお食事の時間にお騒がせ致しまして、申し訳ございません。
すぐに片付けますので引き続き、お食事をお楽しみ下さいませ。


他の客に深々と頭を下げて、片付けをしてくれているスタッフに、頼む、と肩に手を置いて。

同期で俺の右腕でもある畑中に接待を頼み、アダンに頭を下げて。

スタッフルームに向かうと、蹲って泣いてるんやろう綾乃の姿があった。


もちろん、ワインまみれで帰らせるわけには行かないと思ったのもあるが。

ほっとかれへんやろ。

ソムリエの資格を薦めたのも俺で、綾乃の味覚を俺だけじゃなくスタッフ全てが認めていて。
綾乃なりのプライドを持って、本当にこの仕事が好きで頑張ってるとわかっているから。



車に乗ってから、手を握っててください、と言われて。

差し出した手をギュッと握り、堰を切ったように泣き出した。


「悔しかった……本当に……合ってましたか?庇って言ってくれた……違いますか?」


「そんなわけないやん!豚肉のローストにジャン・マルク・ピヨは完璧な組み合わせやった。あの客がジャン・マルク・ピヨが口に合わなかっただけや。もう気にするな」


「けど……大事なお客さんが……」


「綾乃は何の心配もせんでええねん。客ひとりやふたりを不快にさせたところで、会社がどうかなるわけやない。俺がさせへん!俺を信じろ!」


自分に責任がある、と思っている綾乃の手をギュッと握り返して伝えると。

はい……と、また泣き出して。


まだ泣くん、と口に出していた。

泣き止ませるために言ったつもりだったんやけどな。

女って本当にわかんねぇ生き物だな。


俺が遊んでるとか噂があるみたいやけど、女遊びするくらいなら仕事する方が楽でいい。

めんどうやねん、色々と。

自分で言うのも何だが今でもモテないわけやないし、大学ん時まではそれなりに遊んでいた。

それ故に今は、そう思うから…?
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