これを運命というのなら
「着いたで?」

終電を逃した日に送った事がある綾乃のアパートに着いて、手を離すと。

ありがとうございました、と真っ赤な瞳と腫れた瞼を擦り、やっと笑ったな。

なんだろな……この笑顔が好きやねん。

フワフワした無邪気な笑顔。

だから、こっちまで気持ち良くなれるというか。

上手く表現は出来ないけれど、守りたくなる。



「明日は定休日だな、ゆっくり休め」


はい、と頷いたあとだ。

部長は?と訊かれて、なんで?と答えていた。

綾乃が言いたいことはわかっていたはずなんだけどな。

綾乃の口から言って欲しかったのかもしれない。


「……明日休みなら、休むなら……今日のお礼させてくれへんかな……と思いまして」


照れ笑いしながら、俺を真っ赤な瞳に映したまま言って欲しかったことを言われたらな……

昼ご飯を食いに行ってデートする?

休みですか?無理に合わせてません?


は?お前が訊いたんだろ?とは、飲み込んで。


「無理に合わせてへん。仕事の時間の合間みたいなもんや。綾乃が礼をしてくれる時間くらい作る」


ありがとうございます!

ほらっ!また、あの笑顔や。

それが、俺には礼でもあるんだけど……悪くないなって思ってん。

入社してから、はじめてに近いデートを綾乃とすんのも。




食べたいもの考えといてくださいね?


わかった。綾乃も行きたいとこ考えといてな?


えっ……あっ!はい……考えときます。
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