これを運命というのなら
迎えに行く、と伝えた時間にアパートの前の道路脇に車を停めて。

綾乃に連絡を入れて。

昨日、会社に戻って数時間後に戻って来た畑中に言われた事を思い出す。


『あの件、藤崎にはまだ言ってないんやろ?お前は連れてくつもりなんやろうから、早めに伝えや?』


今日がいい機会だな………連れてくか、あの場所へ。



「お待たせしました!」


綾乃に窓ガラスをノックして、運転席側からドアを開けると、そう言って車に乗って。

ワインの匂い消えてる!

いきなり、それか!

確かに昨日はワインの匂いが充満してたな。


綾乃を送った後に窓を全開にして、スチームタイプの消臭剤を使ったら消えた。

そう伝えると、よかった、と微笑んで。

また謝るから、謝んな、と。

つい、また頭をポンっと手を置いていた。

これはもう、綾乃に対する癖みたいなもんで……気が付いたらしてるな。

どうしてなのかはわからない。

そのうち、わかるだろうと思っていて。

今は、わからないままでいい。

綾乃も嫌がっている素振りもないから。




俺と綾乃の目の前に運ばれてきた、鶏肉の照り焼き定食。

食べたいと俺が言ったのは鶏肉で、しかも和食だったから。

就職してからは自炊する暇すらなく。

接待で口にするのはイタリアンかフレンチ。

食べる時間があるなら仕事をする、腹が減れば手軽に食べれるコンビニのおにぎりかパンかサンドイッチ。

だからか、和食が無性に食べたかった。



「ここの鶏肉の照り焼き、美味しいんですよ」


綾乃が言うように、確かに美味しい!

懐かしい温かくなるような。

それに俺は、


「鶏肉は好きですか?」


「好きやで。肉の中で1番」


私もです!と、答えた綾乃の美味しそうに食べる笑顔もいいな。


面接で、傍に置きたい、と思ったのはきっと!

この笑顔も、普段の無邪気な笑顔も、綾乃の全ての笑顔を守りたいと思ったんだな。

綾乃が、どう俺を思ってるのかはわからへんし。

今は訊くつもりもないけれど、たぶん俺は綾乃を好きや。

もちろん、大切な部下として。

そして………女として。

気持ちよりも先に言うべきことがある。

これからもずっと、俺の傍に置くために。
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