これを運命というのなら
パソコンの画面に映し出されている、終わりの見えない伝票や在庫管理表や

その他諸々と格闘している俺のスマホが音をたてる。


『彼女さんから鍵をお預かりしています。お帰りの際にフロントへ寄っていただけますか?』


あいつ……マンションのコンシェルジュに鍵を預けて出て行きやがった。

舌打ちを堪え、わかった、と返事をして通話を切って。

イスの背もたれに項垂れるように背中を預けて、盛大な溜息が漏れた。


「もう無理や!我慢できへん!信じたくても信じられへん!私は陽希さんの家政婦でもお母さんでもないねん!それに、陽希さんの秘書という名の御用聞きでもないねん!感謝はしてるけど、もう一緒には歩いて行かれへん!ごめんなさい……」


半泣きで俺に訴えて。

半同棲していたマンションから、出て行く、と宣言されて2日か……

あいつに任せていた、、、

あいつだから任せていた仕事はこんなにあったのか……と居なくなって、初めて存在の大きさを実感する。

他の社員に任せればいいだけなんだが、俺の性格上どうしても出来ない。

心の底から信頼している相手にしか任せられないのだから。


社長室の来客用のソファーで、あいつはいつもパソコンと睨めっこしながら。

ときどき俺を気にかけながら淡々と、俺が今格闘中の仕事をこなしていたんだな。

雑用も、店へ出向いて社員やバイトの教育も、家事も全て、

文句もあまり言わずに。

ソファーを見てもあいつはいない。

居て当たり前だった存在が今はないって寂しくて、心に穴が空いたみたいに苦しい。

後悔しても遅いんやけど、もっと大事にしてやればよかったな。

仕事よりも、仕事関連の女達よりも。

もっと気にかけてやればよかったな。

強がりで、甘えベタなあいつを。
< 3 / 42 >

この作品をシェア

pagetop