これを運命というのなら
お手軽イタリアンとフレンチの、都内に10店舗。

現地直輸入のワイン専門店とイタリアとフランスの食材を扱うショップを、それぞれ都内に5店舗、経営している飲食業界へ―――

即採用で飛び込んで半年で、ホール主任になり。

イタリアンの店を任せられるようになった私の背後から、深みと色気と甘さを含んだ声が鼓膜に響く。


「綾乃!おはよ!」


おはようございます、と振り返って答えるて見上げると伊藤営業部長の毎回お決まりである、頭ポンポンをいただいて。

ふと、考える。

伊藤部長が私を、綾乃と呼ぶようになったのはいつからやろ?

入社してすぐは、藤崎だった気がする。

いや………すぐやった?

今でも社長や他の部長クラスの前では、藤崎やな。

そこは使い分けてる………

もう、綾乃って呼ばれるのが当たり前になっていてわからへん。


「おい!人の顔を見ながら百面相すんな」


その声で、また頭にポンっと手を置かれて我に返って。

すいません、と言った私に、なにを考えてたん?


「……あっ!……部長がいつから私を名前呼びしてたかな?って考えてまして……」


「ふーん……いつから?……俺もわからんわ。なんか呼びやすいから、名前呼びになったんちゃうかな」


そうですか……と、まぁ……こんなやり取りを聞いていただろう先輩女子社員から、チラチラと視線を感じて。

今日の要件は?と訊ねる。
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