これを運命というのなら
スタッフルームのドアが空く音と一緒に、大丈夫?

この声……部長!

ぐちゃぐちゃの顔なんて見られたくない。

ううん……見せられへん。

だから、大丈夫です。


「大丈夫なら、こっちを向け!」


溜息と同時に、蹲る私の頭上から降って来た柔らかい声。

一瞬だけ向きたくなったけれど、無理です、と囁くように呟いていて。

頭に置かれた温かい手に、ベチャベチャですよ、と。


「そうだな……ワインくさいな」


背後にしゃがんだ気配がして、頭にまた手を置いてワシャワシャと撫でられると。

乾き切っていないワインの滴が飛び散って、ワインの匂いが更に濃く鼻を掠めていく。

ジャン・マルク・ピヨ。
酸味の強い、樽の香り。

嫌いじゃない香りだけど……今は……ダメ。


「……全く……大丈夫やないな……」


嗚咽が出た私に、呆れた声と溜息交じりの声で、そう言うと。

そんなぐちゃぐちゃで電車で帰る気か?
送ってくから帰る用意しろ!

今度は優しい声で、両腕を掴んで抱き抱えるように立ち上がらせてくれた部長の手からも。

ワインの匂いがフワッと香る。
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