これを運命というのなら
「……部長の車の中がワイン臭くなりますよ?濡れちゃいますよ?飲酒運転ですよ?それに、接待してた方はいいんですか?大切な取引先の方でしょ?」


まだ背を向けたままの私の肩にテーブルクロスを掛けてくれて。

これを巻いときゃ濡れるのは回避できるやろ。


「それから、ワインは嫌いじゃない。今日は口にしたとは言ったがまだ飲んでない。ワイン臭くても平気。そのうち消える。あと……アダンとの事は畑中に任せて来た、他の客には頭を下げて来たから心配するな……」


安心させるように、頭をポンっとしてくれたから。

ぐちゃぐちゃの顔をテーブルクロスで拭いて、ロッカーから鞄と私服を持って。

……お言葉に甘えます。


最初から素直に甘えとけ!


ようやく、部長を見上げた私に苦笑いの優しい微笑みで。

帰るで、と。

ベタベタの手を握られて、手を引かれる。

え?と、思ったのも束の間。


「部長の手も私の手もベタベタですね」


1歩後ろから見上げると、そうやな、と笑って。

拭けばいい。

温かい手を握り返せば、泣くならひとりで泣くな!

なんて言われたら……車の中で泣かせてください、って素直になってしまうやん。
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