可愛い番犬を育成したつもりがどうやら狼だった件~だけどやっぱり私の犬はとっても可愛い~
 パクリと食べた後、わざとらしく赤い舌で自身の唇を舐めたジェイクは、平然と、むしろ余裕すら滲ませてそう口にする。

(こ、この人本当にジェイクなのよね?)

 背も、髪も、瞳の色も全てジェイク。話し方はいつもより大人っぽい口調に変えているが、声だってジェイクだ。
 ――いや、声は若干いつもより低いかも?

 だが別人と思うほどの違いではなく、話し方を変えているからそう聞こえるだけだろう。
 けれど、どうしてか心臓が落ち着かない。それもこれも、彼がジェイクだと確信があるはずなのにいつもと違うことをしてくるから。

 そう判断した私は、ほぼ無意識に彼の仮面へと手を伸ばした。
 指先が彼の犬の仮面に触れる瞬間、ぎゅっと手を握られて肩が跳ねる。

「それはご法度ですよ、お姫様」
「あ……」

 指摘されてハッとする。
 仮面舞踏会の会場内で、仮面を外し身元を明らかにする行為はマナー違反だ。
 それも、自分ではない相手の仮面ならば尚更である。

「ごめんなさい!」

 自分がやろうとしたことに気付き慌てて謝罪を口にすると、彼の口角がゆっくりと上がる。
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