可愛い番犬を育成したつもりがどうやら狼だった件~だけどやっぱり私の犬はとっても可愛い~
「そんなに気になるのなら、場所を移しましょう」
「場所、を」

 こういった夜会では休憩室が必ず用意されている。
 お酒も出る場所だ。気分を悪くしてしまった招待客が体を休めるために設けられているのだが、その表向きの理由ではなく男女が共に“休憩”するために使われることの方が圧倒的に多いと言うのが現実である。
 そして私も、流石にその意味は知っていた。

(でも、私の目の前にいるのはジェイクだわ)

 確認したくて仮面に手を伸ばしたのは私だが、それと同時に目の前のこの青年がジェイクであると確信しているのも本当なのだ。
 そして自称私の犬であるジェイクは、私の幼馴染みであり可愛い弟のような存在。
 そんな彼と、何かが起きるはずはない。

 そう考えた私は、ゆっくりと頷いた。

「いいわ、移動しましょう。丁度疲れてきたところなの」
「ではどうぞこちらへ」

 依然握られたままの手を、彼が優しく引いてエスコートしてくれる。
 今まで何度もエスコートして貰ったのだ。手を引く強さも優しさもよく知っているものであったことに、私はこっそりと安堵の息を吐いたのだった。
< 13 / 37 >

この作品をシェア

pagetop