捨てられた邪気食い聖女は、血まみれ公爵様に溺愛される~婚約破棄はいいけれど、お金がないと困ります~【書籍化+コミカライズ準備中】
05 なるほど、黒文様仲間ということですね!
公爵様と別れたあと、私は無事に婚約者の誤解がとけたことにホッとしていた。
それにしても、私の身体に浮かぶ黒文様が消えていたのは、どういうことなのかしら?
不思議に思いながらも、旅の疲れが出たのか私はベッドに横になったとたんに眠ってしまった。
次の日の朝、鏡を見ると顔にあった黒文様が消えていた。手や足を確認してもきれいさっぱりなくなっていて、もう黒文様は左肩にしか残っていない。
「夢や勘違いじゃなかったのね」
部屋の扉がノックされた。私はいつものくせで黒いベールをかぶろうとしてやめる。黒文様がなくなったのなら、もう顔を隠す必要はない。
「失礼します!」
そう言って部屋に入ってきた護衛騎士キリアは、私に深く頭を下げた。
「昨晩は大変申し訳ありませんでした! 夜に戻った閣下にエステル様のお言葉を伝えたところ、そのままエステル様の部屋に向かわれてしまい!」
「あ、いえいえ! お気になさらず」
「実は昨日、閣下も一緒にエステル様をお出迎えする予定だったのですが、領内に魔物が出てしまい。閣下と一部の騎士達で討伐に向かっておりました」
「魔物の討伐……」
公爵様は、子どものころから魔物を倒して返り血を浴び続けることにより黒文様が現れたといっていた。
「ここでは、魔物の討伐が当たり前なのですね」
王都では長らく魔物が出没していない。だから、魔物と戦う必要がなかった。
もしかして、公爵様が王都で『血まみれ公爵』と恐れられている理由は、公爵様自ら魔物退治をするからなのかも?
「エステル様を怖がらせてはいけないと魔物討伐のことを黙っておりました。お許しください。それでなくとも閣下は、あまり明るいうちに出歩くことがなく。その、少し事情がありまして……。なので、失礼を承知で、夜にエステル様のお部屋に向かわれたのだと……」
キリアは、言いにくそうにしているけど、公爵様が明るいうちに出歩かない理由が私にはわかる。
きっと身体に浮かぶ黒文様で、人々を怖がらせないためよね。私も同じ理由で、今までずっと黒ベールで顔を隠していたから。
「公爵様の身体中にアザが……黒文様があるからですよね?」
「え?」
驚くキリアに私は左肩に残っている黒文様を見せた。
「実は私にもあったのです。もっとひどかったのですが、フリーベイン領に来たらなぜか消えてしまって。今では肩にしか残っていません」
「ええっ!? では、エステル様のお力で閣下の黒文様も消せるんですか!?」
「消える条件さえわかれば可能だと思います」
私を見つめるキリアの瞳がキラキラと輝いている。
「さすが聖女様!」
「いえ、まだ消せると決まったわけでは……」
「そうですが、それでもやはりすごいです!」
こんなにまっすぐほめてもらえるなんて、なんだかくすぐったい。
「さぁさぁ朝食に向かいましょう! 料理人がエステル様のために腕をふるいましたよ!」
「その件ですが……あ、待ってキリア」
はりきるキリアに背中を押されて、私は食事の席まで連れていかれてしまった。
食卓テーブルには花が飾られ、美しい食器が並べられている。
「さぁ、どうぞ」
キリアが椅子を引いて座らせてくれた。
「いえ、あの私は、本当は婚約者じゃなくて――」
使用人なのですと言う前に、料理が運ばれてくる。
うっ……おいしそう。
私は罪悪感にさいなまれながら朝食をいただいた。
「おいしい! 本当においしいです!」
フリーベイン公爵領の食事は、どれもとてもおいしい。味付けが良いのはもちろんのこと、王都で食べる食事より食材が新鮮な気がする。
使用人たちの温かい眼差しを感じて私は我に返った。
「って、違う!」
「エステル様?」
戸惑うキリアに、今度は私が頭を下げる番だった。
「ごめんなさい! 実は私、本当は公爵様の婚約者ではないんです!」
使用人たちは、ポカンと口を開ける。
「王都から追い出されてしまい、フリーベイン領には働きに来ました。下働きでもなんでもします。ここに置いてください!」
「あの、エステル様、何か誤解があるようです。私達は、今朝、閣下よりエステル様に最高級のもてなしをするように、と指示を受けました」
「でも、私は公爵様の婚約者ではないのに?」
キリアとしばらく見つめ合ったあと、私はハッとなった。
「もしかして……」
公爵様は、同じ黒文様で苦しんできた私を哀れに思ってくださったのかもしれない。
私だって昨晩、公爵様の黒文様を見て、不謹慎(ふきんしん)にも一緒だと嬉しくなってしまった。
公爵様も同じ気持ちだったのかも?
「なるほど、公爵様と私は、黒文様仲間ということなのね……」
「えっと、エステル様?」
だいぶ状況がわかってきた。
「わかりました。公爵様のお気持ちはありがたくいただきます」
キリアを含めた使用人たちは、ホッと胸をなでおろしている。
「エステル様、お部屋はいかがでしたか? 閣下より、部屋が気に入らなかったら、エステル様の好きに改装して良いと言われています」
「改装? いえ、あのままで十分すてきです」
「それは良かったです!」
部屋はあのまま使わせてもらって良いみたい。もう私が使ってしまったから、公爵様に本当の婚約者ができたら、きっと全面改装するよね?
「じゃあ、お言葉に甘えて部屋はあのまま使わせていただきますね」
「はい! あ、エステル様、閣下から『必要なものを言ってくれ。すべてこちらでそろえる』とのことです」
「え?」
たしかに神殿で着ていた服は、ここでは浮いてしまう。私は、神殿服以外に着替えなんてもっていない。今もワンピースを貸してもらっている。
「そうですね、ありがとうございます。では、着替え用にメイド服を二着いただけませんか?」
メイド服なら動きやすいし、汚れてもすぐに洗えるからね。
「メイド、服?」
ざわつく使用人たちの中で、キリアは「さすが聖女様! つつしみあるお言葉ですが、あなたは次期公爵夫人になるお方! メイド服では困ります。こちらでエステル様に似合うものをそろえさせていただきますね!」と明るく笑う。
うーん、誤解が根深いわ。これは公爵様から直接、皆さんに説明していただかないと。
でも、追い出されなくてよかった。
公爵様の優しさに感謝しながら、私はここでお役に立てることがないかと真剣に考え始めた。
それにしても、私の身体に浮かぶ黒文様が消えていたのは、どういうことなのかしら?
不思議に思いながらも、旅の疲れが出たのか私はベッドに横になったとたんに眠ってしまった。
次の日の朝、鏡を見ると顔にあった黒文様が消えていた。手や足を確認してもきれいさっぱりなくなっていて、もう黒文様は左肩にしか残っていない。
「夢や勘違いじゃなかったのね」
部屋の扉がノックされた。私はいつものくせで黒いベールをかぶろうとしてやめる。黒文様がなくなったのなら、もう顔を隠す必要はない。
「失礼します!」
そう言って部屋に入ってきた護衛騎士キリアは、私に深く頭を下げた。
「昨晩は大変申し訳ありませんでした! 夜に戻った閣下にエステル様のお言葉を伝えたところ、そのままエステル様の部屋に向かわれてしまい!」
「あ、いえいえ! お気になさらず」
「実は昨日、閣下も一緒にエステル様をお出迎えする予定だったのですが、領内に魔物が出てしまい。閣下と一部の騎士達で討伐に向かっておりました」
「魔物の討伐……」
公爵様は、子どものころから魔物を倒して返り血を浴び続けることにより黒文様が現れたといっていた。
「ここでは、魔物の討伐が当たり前なのですね」
王都では長らく魔物が出没していない。だから、魔物と戦う必要がなかった。
もしかして、公爵様が王都で『血まみれ公爵』と恐れられている理由は、公爵様自ら魔物退治をするからなのかも?
「エステル様を怖がらせてはいけないと魔物討伐のことを黙っておりました。お許しください。それでなくとも閣下は、あまり明るいうちに出歩くことがなく。その、少し事情がありまして……。なので、失礼を承知で、夜にエステル様のお部屋に向かわれたのだと……」
キリアは、言いにくそうにしているけど、公爵様が明るいうちに出歩かない理由が私にはわかる。
きっと身体に浮かぶ黒文様で、人々を怖がらせないためよね。私も同じ理由で、今までずっと黒ベールで顔を隠していたから。
「公爵様の身体中にアザが……黒文様があるからですよね?」
「え?」
驚くキリアに私は左肩に残っている黒文様を見せた。
「実は私にもあったのです。もっとひどかったのですが、フリーベイン領に来たらなぜか消えてしまって。今では肩にしか残っていません」
「ええっ!? では、エステル様のお力で閣下の黒文様も消せるんですか!?」
「消える条件さえわかれば可能だと思います」
私を見つめるキリアの瞳がキラキラと輝いている。
「さすが聖女様!」
「いえ、まだ消せると決まったわけでは……」
「そうですが、それでもやはりすごいです!」
こんなにまっすぐほめてもらえるなんて、なんだかくすぐったい。
「さぁさぁ朝食に向かいましょう! 料理人がエステル様のために腕をふるいましたよ!」
「その件ですが……あ、待ってキリア」
はりきるキリアに背中を押されて、私は食事の席まで連れていかれてしまった。
食卓テーブルには花が飾られ、美しい食器が並べられている。
「さぁ、どうぞ」
キリアが椅子を引いて座らせてくれた。
「いえ、あの私は、本当は婚約者じゃなくて――」
使用人なのですと言う前に、料理が運ばれてくる。
うっ……おいしそう。
私は罪悪感にさいなまれながら朝食をいただいた。
「おいしい! 本当においしいです!」
フリーベイン公爵領の食事は、どれもとてもおいしい。味付けが良いのはもちろんのこと、王都で食べる食事より食材が新鮮な気がする。
使用人たちの温かい眼差しを感じて私は我に返った。
「って、違う!」
「エステル様?」
戸惑うキリアに、今度は私が頭を下げる番だった。
「ごめんなさい! 実は私、本当は公爵様の婚約者ではないんです!」
使用人たちは、ポカンと口を開ける。
「王都から追い出されてしまい、フリーベイン領には働きに来ました。下働きでもなんでもします。ここに置いてください!」
「あの、エステル様、何か誤解があるようです。私達は、今朝、閣下よりエステル様に最高級のもてなしをするように、と指示を受けました」
「でも、私は公爵様の婚約者ではないのに?」
キリアとしばらく見つめ合ったあと、私はハッとなった。
「もしかして……」
公爵様は、同じ黒文様で苦しんできた私を哀れに思ってくださったのかもしれない。
私だって昨晩、公爵様の黒文様を見て、不謹慎(ふきんしん)にも一緒だと嬉しくなってしまった。
公爵様も同じ気持ちだったのかも?
「なるほど、公爵様と私は、黒文様仲間ということなのね……」
「えっと、エステル様?」
だいぶ状況がわかってきた。
「わかりました。公爵様のお気持ちはありがたくいただきます」
キリアを含めた使用人たちは、ホッと胸をなでおろしている。
「エステル様、お部屋はいかがでしたか? 閣下より、部屋が気に入らなかったら、エステル様の好きに改装して良いと言われています」
「改装? いえ、あのままで十分すてきです」
「それは良かったです!」
部屋はあのまま使わせてもらって良いみたい。もう私が使ってしまったから、公爵様に本当の婚約者ができたら、きっと全面改装するよね?
「じゃあ、お言葉に甘えて部屋はあのまま使わせていただきますね」
「はい! あ、エステル様、閣下から『必要なものを言ってくれ。すべてこちらでそろえる』とのことです」
「え?」
たしかに神殿で着ていた服は、ここでは浮いてしまう。私は、神殿服以外に着替えなんてもっていない。今もワンピースを貸してもらっている。
「そうですね、ありがとうございます。では、着替え用にメイド服を二着いただけませんか?」
メイド服なら動きやすいし、汚れてもすぐに洗えるからね。
「メイド、服?」
ざわつく使用人たちの中で、キリアは「さすが聖女様! つつしみあるお言葉ですが、あなたは次期公爵夫人になるお方! メイド服では困ります。こちらでエステル様に似合うものをそろえさせていただきますね!」と明るく笑う。
うーん、誤解が根深いわ。これは公爵様から直接、皆さんに説明していただかないと。
でも、追い出されなくてよかった。
公爵様の優しさに感謝しながら、私はここでお役に立てることがないかと真剣に考え始めた。