夜咲く花は愛を語る彼を照らす
「よし!」
 姿見を見て、私は声を出した。

 鏡に映る私は浴衣を着ている。

 襟の抜きも帯も完璧。

 今日まで何回も練習したんだから。

 見栄かもしれないけど、29歳で浴衣が着れてないなんて思われたくないし。

 合わせて買ったかごバッグもとても浴衣に似合ってる。

 彼は友達の紹介で知り合った。何度かデートに出かけて、だけどまだお付き合いには至ってない。

 花火デートは初めて。
 きれいって言ってもらえるといいな。





 花火会場の最寄り駅で待ち合わせた。

 待ち合わせをしている人はたくさんいたけれど、私はすぐに彼を見つけた。

 なんでだか、彼は人目をひく。顔が整っているからってだけじゃなくて、人をひきつけてやまないないなにかが体から発せられている感じがする。

 彼は私を見た瞬間、にこっと笑う。

 私はずきゅん、と痛む胸を押さえた。

 こうやって笑顔を向けられると、自分が好かれていると思ってしまう。
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