退屈な映画のあと
それから
みすずと史雄はその後も、時々よく分からない衝突をしながらも、ずるずると関係を続けた。
そしてみすずは学校を卒業後、就職のために故郷に帰ることになった。
断じて彼氏ではない、「映画を見て、物を一緒に食べて、セックスするだけ」の間柄である文雄には、ただ事後報告として知らせた。
そこで初めて史雄は「帰っちゃだめだ。俺は君のことが好きなんだよ」と言い、テーブルで対面に座っていたみすずの手を握った。
みすずは少し呆れ、「何言ってるの?私たちはそういうんじゃないんでしょ?」と答え、「手、放して」と言い足した。
ホテルの一室ではなく、人目のある喫茶店で話したことについて、史雄は後悔し、みすずは安堵した。
「今さら恥ずかしいし」「何だかシャクだし」
「ちゃんとした彼氏(彼女)ができたらもう会わないだろうし」
皮肉なことに、2人は今までは同じ「思い」を抱えていたようだ。
ただ、何かの拍子に高ぶった史雄とは違い、みすずは史雄の突然の言葉を聞いても、少し気持ちが揺らいだだけで、「なーんてね。ないない」で済ます程度の気持ちになっていたようだ。
◇◇◇
史雄はみすずが寮を引き払う寸前のタイミングで、「君は俺の手あかがついたテディベアなんだ。誰かに取られそうになって、初めて自分の気付いた」という内容の手紙とともに、自分の欄だけ記入された婚姻届を送り付けてきた。
みすずは史雄を振って誰かのものになるわけではない。ただ田舎に帰って就職するだけだ。
しかし変な方向に盛り上がった史雄にとっては、自分のもとを去っていくみすずを、「誰かが奪った」と感じてしまったのだろう。
テディベアのくだりといい、婚姻届の送り付けといい、みすずを呆れさせ、失望させるには十分な材料ばかり。
(この人、駄目だこりゃ…)
みすずは非常に冷静な――というより、さーっと冷めたような、覚めたような気持ちになった。
史雄との関係は、2年弱だった。
彼に「束縛」されていなければ、誰かと築いていたかもしれない人間関係は少し惜しいが、しょせん架空のものを惜しんでもどうにもならない。
みすずはまだ若かった。
もう中年の声を聞く年齢になっている史雄が、自分のことを引きずるかもしれないことに気付いていないし、気付いても、「で?」という話である。
【了】