狂気のサクラ
土曜日は会社も休みでひとりで過ごしきれる自信がない。さゆりと会う約束をした。さゆりにはまだ彼とのあの日のことは話せずにいた。
彼に会えなくなってから私は軽自動車を購入し、移動足は自転車から自動車へ変わっていた。
彼ももう運転免許を取得しているだろう。教習所で待ち伏せたところで会える可能性はゼロだ。
歯科衛生士の専門学校へ通っているさゆりは研修か何かで知り合ったずいぶん年上の歯科医と付き合いはじめてすぐに同棲をはじめた。彼は開業したばかりでさゆりは将来的にはその歯科で働くと言い、先の人生をもう決めてしまっている。黒髪の短髪で恰幅がよく、厳つく見えるさゆりの彼は物腰はとても柔らかい。家に行くと当然その彼も居たけれど、寝室から出てくることはほとんどなかった。
「は?どういうこと?」
リビングのソファーに並んで座り、彼との出来事を話し今の状況を説明しかけたところでさゆりは激怒した。
「なんで知り合ったばっかりの男の家なんて行くの?」
この反応は予想できた。
「で、なんでちゃんと付き合ってない人とそうなるの?」
そんなこと考える余裕なんてなかった。ただ彼が好きで好きで仕方がなかった。
「悠樹、だっけ?ほんとにただのクズだから」
「でも、あんなに好きだっていってくれた」
「それでひと月も連絡ないんでしょ?」
「まだ25日だけど」
「いやおかしいでしょ、その日から連絡つかないとかやり逃げ以外のなんでもないから」
さゆりは容赦なくそう言った。
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